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東京地方裁判所 昭和58年(行ウ)79号 判決

主文

一  被告が、中労委昭和五三年(不再)第五七号事件、同昭和五五年(不再)第四号事件及び同第五号事件につき、昭和五七年一二月一日付けでした命令中、主文第一項第一号において、原告会社に対し、原告組合との間で、昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの実施に関して、速やかに誠意をもって団体交渉を行うべきことを命じた部分を取り消す。

二  原告会社のその余の請求及び原告組合の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、参加によって生じたものを含めて二分して、その一を原告会社の、その一を原告組合の各負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

〔甲事件〕

一  請求の趣旨

1 被告が、中労委昭和五三年(不再)第五七号事件、同昭和五五年(不再)第四号事件及び同第五号事件につき、昭和五七年一二月一日付けでした命令中、主文第一項第一号ないし第三号をいずれも取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告会社の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告会社の負担とする。

〔乙事件〕

一  請求の趣旨

1 被告が、中労委昭和五三年(不再)第五七号事件、同昭和五五年(不再)第四号事件及び同第五号事件につき、昭和五七年一二月一日付けでした命令中、主文第一項第四号及び同第二項中原告組合の再審査申立てを棄却した部分をいずれも取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告組合の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告組合の負担とする。

第二当事者の主張

〔甲事件〕

一  請求原因

1 被告に対する再審査申立てに至る経緯

(一) 原告組合は、昭和五二年一〇月一七日、大阪府地方労働委員会(以下「大阪地労委」という。)に対し、原告会社を被申立人として、原告会社が原告組合の黒川乳業分会(以下「分会」という。)所属の組合員(以下「分会員」という。)に対して、昭和五二年度の夏季一時金を支給しないのは不当労働行為に該当するとして、救済申立てを行い、同事件は、大阪地労委昭和五二年(不)第八七号事件として、同地労委に係属した。

これに対し、同地労委は、昭和五三年一〇月三〇日、原告組合の救済申立てを棄却する旨の命令を発したので、原告組合は、被告に対して、再審査の申立てを行い、同事件は、中労委昭和五三年(不再)第五七号事件として、被告に係属した。

(二) (1) 原告組合は、昭和五二年五月六日、大阪地労委に対し、原告会社を被申立人として、原告会社が原告組合と誠実な団体交渉を行うことなく、労働時間、休日等の労働条件の変更を内容とする会社再建案を一方的に実施したことは不当労働行為に該当するとして、救済申立てを行い、同事件は、大阪地労委昭和五二年(不)第四〇号事件として、同地労委に係属した。

(2) 原告組合は、昭和五二年八月二七日、大阪地労委に対し、原告会社を被申立人として、原告会社の左記行為は、いずれも不当労働行為に該当するとして、救済申立てを行い、同事件は、大阪地労委昭和五二年(不)第七六号事件として、同地労委に係属した。

〈1〉 大阪地労委における昭和五二年(不)第四〇号事件の審問期日に出席した分会員に対する昭和五三年七月末日の賃金の支払に当たり、右事件の審問期日出席に伴う不就労時間に相当する賃金カットを行ったこと。

なお、原告会社は、その後も継続して大阪地労委における審問期日及び大阪地方裁判所における後記仮処分事件の審尋期日に出席した分会員に対する賃金の支払に当たり、審問期日等の出席に伴う不就労時間に相当する賃金カットを続けた。このため、原告組合は、右は一連の不当労働行為を構成するものとして、右一連の不当労働行為からの救済を求めるものにその救済申立てを拡張した。

〈2〉 分会員である田野尻聖子(以下「田野尻分会員」という。)に対し、昭和五二年八月末日の賃金の支払に当たり、同女が生理休暇期間中である七月二六日に組合活動を行ったことを理由として、同日分の賃金カットを行ったこと。

なお、原告会社は、同女に対する昭和五三年七月末日の賃金の支払に当たっても、同女が生理休暇期間中である同年六月二八日に組合活動を行ったことを理由として、同月二八日及び翌二九日分の賃金カットを行った。このため、原告組合は、右は一連の不当労働行為を構成するものとして、右一連の不当労働行為からの救済を求めるものにその救済申立てを拡張した。

〈3〉 原告会社大阪営業所長である太田三治(以下「太田所長」という。)が、昭和五二年六月一三日、田野尻分会員に対し、原告組合が同意していない機構改革に従って担当事務を行うように個別に要求し、その際、解雇をほのめかすなどの恫喝を行ったこと。

(3) 原告組合は、昭和五二年一二月一三日、大阪地労委に対し、原告会社を被申立人として、原告会社の左記行為は、いずれも不当労働行為に該当するとして救済申立てを行い、同事件は、大阪地労委昭和五二年(不)第一〇五号事件として、同地労委に係属した。

〈1〉 昭和五二年一一月一九日に行われた団体交渉の席上における原告組合所属組合員の言動等を理由として、同日以後原告組合との団体交渉を拒否したまま、分会員に対する昭和五二年度以降の賃上げを実施せず、また、同年度の夏季以降の一時金を支給しないこと。

〈2〉 昭和五二年一一月三〇日に実施されたストライキ当日、原告会社の当時の取締役黒川直明(以下「黒川取締役」という。)が、原告会社社屋に貼付してあった原告組合のステッカーを剥がしたため、原告組合執行委員長吉田宗弘(以下「吉田委員長」という。)らが抗議をしたところ、黒川取締役が、居合わせた原告会社総務課長高井宇一(以下「高井課長」という。)に命じて、所轄警察署に連絡をし、後日、吉田委員長を傷害罪で事実に基づかない告訴をしたこと及び右警察署に対する連絡を巡って、吉田委員長及び原告組合書記長鳥海豊(以下「鳥海書記長」という。)が、高井課長に対し強要して謝罪文を作成させたとして、鳥海委員長を強要罪で事実に基づかない告訴をしたこと。

〈3〉 昭和五二年一二月六日、原告組合の立看板を無断で撤去し、翌七日には、原告組合の組合旗をそのポールを折り曲げて盗んだこと。

(4) これに対し、大阪地労委は、右昭和五二年(不)第四〇号事件、同第七六号事件及び同第一〇五号事件を併合して審理した上、昭和五四年一二月二七日、別紙一記載の主文のとおり、右(1)ないし(3)の救済申立ての一部については救済命令を発し、その余については救済申立てを棄却する旨の命令を発した。そこで、救済申立ての棄却命令については原告組合が、救済命令については原告会社が、それぞれ、被告に対して、再審査の申立てを行い、中労委昭和五五年(不再)第四号事件及び同第五号事件として、被告に係属した。

2 被告の昭和五七年一二月一日付け命令(以下「本件命令」という。)の存在

被告は、前項記載の中労委昭和五三年(不再)第五七号事件、同昭和五五年(不再)第四号事件及び同第五号事件を併合して審理した上、昭和五七年一二月一日付けで、別紙二記載の主文のとおりの命令を発し、その命令書は、昭和五八年一月一三日、原告会社に交付された。

3 不当労働行為該当性についての認定・判断の誤り

被告は、本件命令において、原告会社が、

(一) 会社再建案に関し、原告組合との間で、誠意をもって団体交渉を行うことなく、先に原告組合との間で締結された労働協約を無視して、会社再建案の実施を通告するなど、会社再建案に従った労働条件の変更を強行しようとしたとの事実認定の下に、右は、原告組合の存在をことさら軽視し、その団体交渉権を否定するものであって、労働組合法七条二号及び三号所定の不当労働行為に該当すると判断し、

(二) 昭和五二年度の賃上げの実施、同年度の夏季及び年末一時金の支給並びに昭和五三年度の賃上げの実施に関し、原告組合との間で誠意をもって団体交渉を行うことなく、長期間にわたり正当な理由もなく団体交渉を拒否し、その結果、賃上げの実施及び一時金の支給がされない状況を作出したとの事実認定の下に、右は、原告組合の存在をことさら軽視し、団体交渉を拒否するとともに、原告組合の組合員の心理的動揺を誘い、原告組合の弱体化を図るものであって、労働組合法七条二号及び三号所定の不当労働行為に該当すると判断し、

(三) 右(二)のような状況の下で、分会員(昭和五四年一月二七日に退職した伊沢倉次を含む。以下、右伊沢を「伊沢分会員」という。)及び元分会員である川尻良信(以下「川尻元分会員」という。)に対して、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の支給をしていないとの事実認定の下に、右は、分会員らに経済的不利益を与えるものであるとともに、原告組合の組合員の心理的動揺を誘い、原告組合の弱体化を図るものであって、労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為に該当すると判断し、

本件命令の主文第一項第一号ないし第三号の救済命令を発したものであるが、右の不当労働行為該当性に関する被告の認定・判断は、いずれも、事実認定及び法的判断を誤るものである。

4 本件命令についてのその他の違法事由

(一) 主文第一項第一号に係る救済の必要性の消滅

原告会社は、昭和五五年二月七日以降、原告組合との間の団体交渉を再開し、昭和五二年度の賃上げの実施、同年度の夏季及び年末一時金の支給並びに昭和五三年度の賃上げの実施についても誠意をもって団体交渉を重ねている。したがって、原告組合に対して、本件命令中主文第一項第一号の救済を与える必要性は、本件命令の発令時において、既に消滅していたから、同号の救済命令は、取り消されるべきである。

(二) 主文第一項第二号に係る救済の必要性の消滅

原告会社は、原告組合との間において、昭和六〇年一月一七日、分会員らに対し、本件命令主文第一項第二号に従って算出した金員を仮支給する旨を合意し、右合意に基づいて、同月一九日、分会員らに対してその支給を完了し、また、昭和六二年九月一四日、川尻元分会員に対しても、本件命令主文第一項第二号に従って算出した金員を仮支給する旨の和解をなし、同年一〇月末日にその支給を完了した。したがって、原告組合に対して、本件命令中主文第一項第二号の救済を与える必要性は既に消滅したから、同号の救済命令は、取り消されるべきである。

(三) 川尻元分会員に対し、主文第一項第二号の金員の仮支給を命じた部分に係る救済の必要性の欠缺

川尻元分会員は、昭和五四年四月一三日、原告組合の組合員資格を喪失した。したがって、仮に、同人に対する昭和五二年度の夏季及び年末一時金の不支給が労働組合法七条一号所定の不利益取扱に当たるとしても、これについては救済の必要がないから、同人に対する昭和五二年度の夏季及び年末一時金の不支給に係る救済申立ては棄却されるべきである。

5 よって、本件命令中主文第一項第一号ないし第三号の救済命令は、いずれも違法であるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の(一)、(二)の各事実は、いずれも認める。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実は、このうち、被告が同3の(一)ないし(三)記載のとおりの認定・判断の下に、本件命令の主文第一項第一号ないし第三号の救済命令を発したとの点は認め、被告がした不当労働行為該当性についての認定・判断が誤りであるとする点は争う。

4 同4の(一)の事実は、このうち、原告会社が、昭和五五年二月七日から、原告組合との間の団体交渉を再開したとの点は認め、その余の事実は否認する。

同4の(二)の主張は争う。

同4の(三)の事実は、このうち、川尻元分会員が、昭和五四年四月一三日に原告組合の組合員資格を喪失したとの点は認め、その余の主張は争う。川尻元分会員は、原告組合の組合員資格を喪失した後も、同人に対する不利益取扱に関する救済手続を原告組合に委任し、右手続を通じて救済を求める意思があることを明らかにしているから、同人に対する不利益取扱に関しても、分会員と同様の救済を図るべきである。

5 同5の主張は争う。

三  被告の主張

1 本件紛争の経緯

(一) 会社再建案の提案とその内容

原告組合は、昭和五二年三月一五日、原告会社に対し、昭和五二年四月分の賃金から一律四万円の賃上げを行うことを要求し、同年三月三一日、原告会社との間において、右要求を巡る団体交渉を行った。その席上、原告会社は、原告組合との間で昭和五〇年九月二五日に週休二日・週三五時間労働を内容とする労働協約(以下「週休二日協約」という。)を締結したことに伴う人件費の増大が最大の原因となって、その経営状態が悪化し、右協約に基づく週休二日・週三五時間労働の労働条件を改めない限り、原告会社の企業としての存続が不可能な状況になったなどとして、別紙三の労働条件対比表の会社再建案欄記載の一六項目を内容とする会社再建案を提示するとともに、昭和五二年度の賃上げ要求に対しては、原告組合が右会社再建案を承認することを条件として、総額にして基本給総額の七パーセントの賃上げを実施するが、右賃上げに当たっては、原告会社において査定を実施し、会社再建案の内容である賃金体系の是正を実現する旨の回答をした。

なお、昭和五二年三月三一日当時、原告会社と原告組合との間で締結されていた労働協約に基づく労働条件は、別紙三の労働条件対比表の旧労働条件欄記載のとおりであって(ただし、同表番号15については、事実上のもの。)、会社再建案は、これを同表会社再建案欄記載のとおり、労働者に不利益に変更するものであった。

(二) その後の交渉経過

(1) 昭和五二年三月三一日の会社再建案の提案当日の団体交渉においては、原告会社は、原告組合に対して、「会社再建案」と題するパンフレットを交付するとともに、右パンフレットに従って、会社再建案の内容及びその必要性について概略的説明を行った。

(2) 同年四月四日、原告会社は、原告組合との間で団体交渉を行ったが、この団体交渉においては、原告会社の製造部における機構改革を巡る論議が中心となり、会社再建案についての実質的討議は行われなかった。

(3) 同年四月二二日、原告会社は、原告組合との間で団体交渉を行ったが、この団体交渉においては、原告会社が、会社再建案の内容である賃金体系の全面改定の具体的内容について説明を行い、これについての質疑を行うことで終わった。

(4) 同年四月二五日、原告会社は、会社再建案に関し、同月二七日、豊中工場において「会社緊急重大発表」を行うとして、これに全従業員の参加を求めるとともに、欠席者は異議なきものとみなす旨の告示を行い、原告組合に対しては、会社再建案の五月一日実施を議題として、同月二六日に団体交渉(最終団交)を行いたい旨の申入れをした。

(5) 同年四月二六日、原告会社は、原告組合との間で団体交渉を行い、その際、翌二七日に「会社緊急重大発表」を行い、そこで会社再建案の五月一日からの実施を決定する旨を述べた。

しかし、原告会社は、右団体交渉終了後、「会社緊急重大発表」については、原告組合及び総評全国一般大阪地方本部黒川乳業労働組合(以下「別組合」という。)のボイコットの意向が強いため、その実施を延期する旨を表明した。

(6) 同年五月七日、原告会社は、原告組合との間で団体交渉を行い、その際、五月九日に「会社緊急重大発表」を行って、同月一一日から会社再建案を実施することを決定する旨通告した。

(7) 同年五月九日、原告会社は、分会員及び別組合の組合員の参加がないまま、非組合員及び原告会社の職制ら従業員の一部のみに対して「会社緊急重大発表」を行い、その場で、同月一一日から会社再建案を実施することを決定した。

(8) 同年五月一一日、原告会社は、「制度及び計算基準変更について」と題する文書を分会員を含む全従業員に対して配布し、同日から、会社再建案に沿って労働条件を変更する旨を通知した。

(9) 同年五月末日、原告会社は、会社再建案に沿って労働条件が変更されたことを否定し、同年五月一一日以降も従来どおりの労働条件によって就労をした分会員らの同月分の賃金の支払に当たって、週休二日制の廃止、生理休暇及び病気欠勤の無給化につき、会社再建案に従った労働条件の変更がされたことを前提とする賃金カットを行った。ただし、右賃金支払に当たって交付された明細書には、会社再建案に基づく賃金体系の改定については、別組合の組合員である担当係長が考課査定を拒否したため労働組合と合意してから行う旨が付記されていた。

(10) 同年六月一日、原告会社が行った右賃金カットを巡り団体交渉が行われ、原告組合からの説明要求に対して、原告会社が、分会員各人についての賃金カットの理由を具体的に説明した。

(11) 同年六月一五日、原告会社の右措置につき、天満労働基準監督署の労働基準監督官から、労働契約の変更が適正に行われておらず、右五月分の賃金の支払方法は、労働基準法二四条に違反しているので、差額を速やかに支払うように勧告がされた。このため、原告会社は、六月三〇日に右賃金カット分を支払ったが、この際も、右賃金カット分の支払は、仮の支払にすぎず、五月一一日からの会社再建案の実施(会社再建案に従った労働条件の変更)の意思は撤回しないことを明らかにした。

(12) 同年六月一八日、原告会社の黒川取締役は、原告組合に対して、会社再建案を提案した三月三一日から九〇日を経過する六月三〇日から、会社再建案を実施する旨を口頭で通告し、その頃から、会社再建案の内容であるパートタイマー制を導入するとともに、新入社員に対しては、新賃金体系に基づき賃金を支払っている。

(13) 同年六月二二日、原告会社と原告組合との間で団体交渉が行われ、会社再建案については、主として、原告会社が、五月一一日から会社再建案を実施したとしていたことと、六月一八日にした六月三〇日からの実施通告との関係についての質疑が行われた。

なお、この席上、原告会社は、先に六月七日の団体交渉で原告組合から提出されていた昭和五二年度の夏季一時金の支給要求につき、資金繰りの目処が立たないため支給が困難である旨を述べた。

(14) 同年六月二八日、原告会社と原告組合との間で団体交渉が行われたが、この日も、会社再建案については、原告会社が、五月一一日から会社再建案を実施したとしていたことと、六月一八日にした六月三〇日からの実施通告との関係についての質疑が行われたにとどまった。

(15) 同年七月四日、原告組合は、昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給につき、大阪地労委に対して斡旋を申請したが、原告会社は、同年七月六日に行われた団体交渉において、昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給について、会社再建案と切り離して話し合うことはできないとの態度を示した。

なお、右斡旋申請については、大阪地労委の斡旋委員の説得により、同年七月二一日、夏季一時金についてのみ斡旋が行われたが、原告組合が、会社回答額(基本給の〇・六五か月分)は低額であるとして承諾しなかったため、同日、斡旋は打ち切られた。

(16) 同年七月二六日、原告会社は、原告組合との間で団体交渉を行い、会社再建案のうち、〈1〉初任給の改定、〈2〉賃金体系の改定、〈3〉労働時間の延長(週休二日制の廃止)、〈4〉残業割増率の改定、〈5〉遅刻、早退の賃金カットを厳密に行うこと、〈6〉社会保険の掛金の労使負担割合を労使折半にすること、〈7〉パートタイマー制を導入することの七項目の実施を提案したが、原告組合はこれを納得せず、同日も交渉の実質的進展はみられなかった。

(17) 同年八月五日、原告会社は、原告組合との間で団体交渉を行い、昭和五二年度の賃上げ及び夏季一時金に関する最終回答として、〈1〉九月一日からの週休一日・週四二時間労働制の実施、〈2〉営業におけるルートの縮小と売上げの増進、〈3〉工場における時差出勤によるロスタイムの解消を条件として、会社再建案の内容である賃金体系の改定に沿う形での査定を行った上で基本給の平均七パーセントの賃上げを妥結月から実施し、更に、出勤状況による査定を行った上で夏季一時金として基本給の一・三か月分を支給する旨の最終回答を行った。

(18) 他方、原告会社は、七月二三日から八月八日までの間に、別組合との間において、昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給について団体交渉を重ね、八月九日、〈1〉八月分賃金から、現行基本給の平均七パーセントの賃上げを実施すること、その配分は、労使で賃金小委員会を設置して、賃金体系の是正を考慮して協議決定すること、〈2〉夏季一時金については、欠勤控除を行った上、現行基本給の一・三五か月分を八月一三日及び同月三一日に分割して支給すること、〈3〉九月一日から、週休二日制を廃止して週休一日・週四〇時間労働制とすること、〈4〉営業におけるルートの縮小と売上げの増進、工場における時差出勤によるロスタイムの解消等の営業、製造の合理化について、現場における条件を労使で検討して九月一日から実施すること、〈5〉原告会社は別組合に対して解決一時金を支払うことを内容とする協定をした。

(19) 同年八月一〇日、原告会社は、原告組合に対して、別組合との間で妥結した右(18)記載の協定のうち、解決一時金の支払に関する部分を除くその他の部分と同一内容の回答書を提示した。

(20) 同年八月一一日に行われた団体交渉において、原告組合は、右回答のうち、夏季一時金の支給額とその支給方法については妥結する旨通告したが、原告会社は、他の条件を含めた一括妥結でなければ夏季一時金の支給には応じられないとして、夏季一時金の支給額及びその支給方法についてのみ協定することを拒否し、この日の団体交渉に出席していた原告会社の当時の代表取締役である黒川繁八(以下「黒川社長」という。)自らが、右(18)の〈3〉記載の週休一日・週四〇時間労働制の導入及び同〈4〉記載の営業、製造の合理化については、原告組合の同意がなくても九月一日から実施する旨を通告して、同日の団体交渉を終わった。

(21) 同年八月一六日、原告会社は、原告組合に対して、労働組合法一七条に基づき、すべての従業員の労働条件を同一に取り扱う必要があるとして、前記(18)記載の別組合との協定内容(ただし、解決一時金の支払に関する部分を除く。)を分会員にも実施するとの趣旨の通知書を交付した。

(22) その後も、同年八月二七日に、原告会社と原告組合との間で団体交渉が行われたが、原告会社は、あくまでも前記(19)記載の回答どおりの条件で妥結することを求め、原告組合はこれに応じなかったため、交渉の進展はみられなかった。

(23) 原告会社は、九月一日から、全従業員に対して週休一日・週四〇時間労働制を実施したが、分会員らは、従前どおり、週休二日・週三五時間で就労を続ける一方、九月二二日には、七月一九日に現行労働条件保全等の仮処分を申請していた大阪地方裁判所において、週休二日協約の勤務時間及び休日の定め(週休二日・週三五時間労働制)に従ってのみ就労する義務があることを仮に定める旨の決定を得た。

(24) このため、原告会社は、右決定に従い、九月以降も分会員に対する賃金の支払に当たり、週休一日・週四〇時間労働を前提とする不就労を理由として賃金カットを行ってはいないが、右決定後も、右(20)及び(21)の週休一日・週四〇時間労働等の実施通告を撤回することはなく、同年一〇月一一日に行われた団体交渉においても、週休一日・週四〇時間労働制の導入及び営業、製造の合理化を含めた一括妥結でなければ、賃上げの実施及び夏季一時金の支給には応じられないとの主張を変えなかった。

(25) このような中で、原告組合は、同年一〇月二七日、昭和五二年度の年末一時金として、基本給の三・五か月分に一律一〇万円を付加した額を一二月一〇日に支給することを求める要求書を原告会社に提出し、同日の団体交渉において、その要求内容を説明した上、これに対する回答を一一月四日に行うことを求めた。

(26) 同年一一月四日、原告会社は、原告組合が申し入れていた同日の団体交渉を拒否して、昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給につき、週休一日・週四〇時間労働制の導入及び営業、製造の合理化を含めて一括妥結した上で、年末一時金交渉を行うことを要請する旨を文書をもって回答した。

(27) 同年一一月一九日に行われた団体交渉において、原告組合は、原告会社の右(26)の回答に抗議するとともに、年末一時金についての有額回答を求めたが、原告会社は、昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給につき、週休一日・週四〇時間労働制の導入及び営業、製造の合理化を含めて一括妥結しない限り、年末一時金に関する団体交渉には入れないとの主張を繰り返したにとどまった。

なお、右団体交渉の席上、分会員である朴時夫(以下「朴分会員」という。)が、組合の方針を批判する趣旨の発言をした原告会社の交渉員である労務顧問の山村正雄(以下「山村顧問」という。)に対し、「黙っていろ。」と発言し、山村顧問が「黙っていたら交渉はできない。」と応酬し、また、その際に同席した原告組合の本部執行委員である大谷本部執行委員(非組合員)について、右山村顧問が「あの男は誰だ。名を名乗れ。」と発言し、これに対して、原告組合の組合員らが、大谷本部執行委員は、本部執行委員として分会結成以来団体交渉には出席しており、原告会社側が知らないはずはないなどとして反論するなどのやりとりがあった。

(28) 原告会社は、一一月二一日、原告組合に対して、〈1〉右朴分会員の発言の取消しと謝罪を行うこと、〈2〉支援組合員は氏名を明らかにすることを求め、これに応じない限り今後一切の団体交渉を行わない旨を文書をもって申し入れ、その後、原告組合との間の団体交渉を拒否するに至った。

(29) このように、原告会社が、昭和五二年一一月一九日以後、原告組合との間の団体交渉を拒否している中で、原告組合は、昭和五三年三月一六日に、同年四月一日から一律四万円の賃上げを行うこと、右賃上げの実施については一切の査定を行わないことを内容とする要求書を提出し、要求内容の説明のための団体交渉を求めたが、原告会社は、これを拒否した。

(30) 原告会社は、右賃上げ要求に対する回答指定日である同年三月二八日になっても何らの回答を行わず、これに抗議をした原告組合に対して、総務部長の堀渕建(以下「堀渕総務部長」という。)が、週休二日制の廃止問題並びに昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給について一括して合意が成立するまでは、昭和五三年度の賃上げの実施については回答をすることができない旨述べた。

(31) 原告組合は、同年三月三〇日、四月一六日、四月一八日及び五月八日に、それぞれ、昭和五三年度の賃上げ等に関しての団体交渉を申し入れたが、原告会社は、これらをいずれも拒否した。

(32) その後も、原告会社は、昭和五五年二月七日まで、原告組合との間の団体交渉の拒否を続け、本件命令の発令時に至るも、分会員に対する昭和五二年度の賃上げ、同年度の夏季及び年末一時金の支給、昭和五三年度の賃上げは、いずれも実施されないままであった。

2 原告会社の行為の不当労働行為該当性

(一) 会社再建案実施に関する誠実団交義務懈怠の不当労働行為該当性

会社再建案が提案された昭和五二年三月当時の原告会社の経営状態は、牛乳の販売本数が増え、設備投資額が増加されており、週休二日・週三五時間労働制の導入等が原因で、その経営が悪化しているといえる状況ではなかった。したがって、週休一日・週四〇時間労働制の導入等労働条件の大幅切下げを内容とする会社再建案を実施しなければ原告会社の存続が不可能というような事情にはなかった。

それにもかかわらず、原告会社は、前記1の(二)記載の交渉経過からも明らかなように、原告組合との間で、誠意をもって団体交渉を行うことなく、先に原告組合との間で締結された労働協約を無視して会社再建案の実施を通告するなど、会社再建案に従った労働条件の変更を強行しようとしている。

右は、原告組合の存在を無視し、その団体交渉権を否定するものであって、労働組合法七条二号及び三号所定の不当労働行為に該当するものというべきである。

(二) 昭和五二年度の賃上げの実施、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の支給並びに昭和五三年度の賃上げの実施に関する団交拒絶の不当労働行為該当性

原告会社は、前記1の(二)記載の交渉経過からも明らかなように、会社再建案の実施ないしその内容の一部をなす労働条件の変更につき、原告組合との間で誠意ある団体交渉を経ていないにもかかわらず、当初は、会社再建案を、昭和五二年八月一〇日以降は、会社再建案の主要な内容である週休一日・週四〇時間労働制の導入及び営業、製造の合理化を承諾するのでなければ、昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給には応じられないとの主張に固執し、同年度の年末一時金の支給については、同年度の賃上げの実施及び夏季一時金について交渉が妥結しない限り団体交渉にすら応じられないとの態度を示し、更に、昭和五二年一一月一九日の団体交渉を最後に、正当な理由もなく長期間にわたり、原告組合との間の団体交渉を拒絶した。

右は、原告組合の存在をことさら軽視し、誠意をもって団体交渉に応ぜず、更には、団体交渉を拒否するものであるとともに、賃上げの実施及び一時金の支給がされない状況を作出して分会員の心理的動揺を誘い、原告組合の弱体化を図るものであって、労働組合法七条二号及び三号所定の不当労働行為に該当するものというべきである。

(三) 昭和五二年度夏季及び年末一時金の不支給の不当労働行為該当性

前記1の(二)記載の交渉経過からも明らかなように、原告会社が、昭和五二年度の夏季及び年末一時金につき、原告組合との間の誠実な団体交渉を経ず、更に、その後、正当な理由もなく長期間にわたって団体交渉を拒絶し、分会員(伊沢分会員を含む。)及び川尻元分会員に対して昭和五二年度夏季及び年末一時金の支給をしないことは、右(二)記載のとおり、分会員の心理的動揺を誘い、原告組合の弱体化を図るものであるとともに、分会員らに経済的不利益を与えるものであって、労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為に該当するというべきである。

3 以上のとおり、原告会社が、〈1〉原告組合との間で誠実な団体交渉を経ないまま一方的に会社再建案の実施を通告するなどしたこと、〈2〉原告組合との間で、昭和五二年度の賃上げの実施、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の支給並びに昭和五三年度の賃上げの実施に関し誠実な団体交渉を経ず、更に、その後、正当な理由もなく長期間にわたり団体交渉を拒絶していること、〈3〉分会員らに対し、昭和五二年度夏季及び年末一時金の支給をしないことは、いずれも不当労働行為に該当するものであって、被告は、その救済のために本件救済命令を発したのであるから、本件救済命令には何らの瑕疵もない。

四  被告の主張に対する認否及び原告会社の反論

1 (一) 被告の主張1の(一)の事実は認める

(二) 同1の(二)の(1)の事実は認める。

同1の(二)の(2)の事実は、このうち、同年四月四日、原告会社が、原告組合との間で団体交渉を行ったとの事実は認め、その余の事実は否認する。同日の団体交渉の中心議題は、会社再建案であって、これに関連して機構改革を巡る論議がされたのである。

同1の(二)の(3)の事実は、このうち、同年四月二二日、原告会社が、原告組合との間で団体交渉を行い、会社再建案の内容である賃金体系の全面改定の具体的内容について説明したとの事実は認め、その余の事実は否認する。

原告会社は、資金繰表、過去三年間の損益計算書、売上高に占める人件費の割合を示す資料などの経理資料を準備して同日の団体交渉に臨み、これらの資料を示して、原告会社の経営状況を詳細に説明したにもかかからず、原告組合は、会社再建案の白紙撤回を主張するのみで、原告会社の説明にはまったく耳を貸そうとしなかった。このような原告組合の不当な態度に起因して、同日の団体交渉においても交渉の実質的進展はみられなかったのである。

同1の(二)の(4)の事実は、このうち、原告会社が同月二六日に団体交渉(最終団交)を行いたい旨の申入れをしたとの事実は否認し、その余の事実は認める。

原告会社は、右二五日にその実施を申し入れた団体交渉を最終団交とは考えておらず、また、最終団交の申入れもしていない。原告会社は、原告組合の理解を得るべく、あくまでも団体交渉を継続する意向であった。

同1の(二)の(5)ないし(7)の各事実は、いずれも認める。

同1の(二)の(8)の事実は認める。

もっとも、会社再建案について原告組合及び別組合の理解が得られないため、原告会社は、当面の間、会社再建案の内容のうち、〈1〉週休一日・週四二時間労働制の導入、〈2〉病気欠勤、生理休暇の無給化についてのみ実施し、他の項目については団体交渉を継続することにした。

同1の(二)の(9)及び(10)の各事実は、いずれも認める。

同1の(二)の(11)の事実は、このうち、原告会社がした昭和五二年五月分の賃金の支払につき、同年六月一五日、天満労働基準監督署の労働基準監督官から、被告主張の趣旨の指導を受けたこと、原告会社が、六月三〇日に賃金カット分を支払ったことは認め、その余の事実は否認する。

原告会社は、天満労働基準監督署の労働基準監督官から、右のとおりの指導を受けたため、週休一日・週四二時間労働制及び病気欠勤、生理休暇の無給化についても、その実施を取り止め、五月分の賃金カット分を支給するとともに、以後、同年六月、七月分の賃金も従前どおりに支払った。

同1の(二)の(12)の事実は認める。

同1の(二)の(13)の事実は、このうち、同年六月二二日に、原告会社と原告組合との間で団体交渉が行われたとの点及びこの席上、原告組合の昭和五二年度の夏季一時金の支給要求に対し、原告会社が被告主張のような回答をしたとの点は認め、その余の事実は否認する。

同日の団体交渉には、原告会社の経理担当の常務取締役である小川謳(以下「小川常務」という。)も出席して、経理資料に基づいて、原告会社の窮状を説明したが、原告組合は、その説明にはまったく耳を貸そうとせず、会社再建案の白紙撤回を要求するばかりであったので、交渉に実質的進展はみられなかった。

同1の(二)の(14)の事実は、このうち、同年六月二八日に、原告会社と原告組合との間で団体交渉が行われたとの点は認め、その余の事実は、否認する。

同日の団体交渉にも、小川常務が出席して原告会社の窮状を説明したが、この日も、原告組合は、その説明にはまったく耳を貸そうとせず、会社再建案の白紙撤回を要求するばかりであったので、交渉に実質的進展はみられなかった。

同1の(二)の(15)ないし(21)の各事実は、いずれも認める。

なお、週休一日・週四〇時間労働制の導入及び営業、製造の合理化は、原告会社の企業としての存続に必要不可欠であり、そのことについては、既に別組合及び非組合員である従業員の理解を得て、九月一日からの実施を予定していたにもかかわらず、原告組合のみがこれを了承しない状況が続いた。そのため、原告会社は、昭和五二年八月一一日の団体交渉の席上、別組合との間で週休一日・週四〇時間労働制の導入を内容とする新協約を締結した経緯を説明するとともに、原告会社との間でも新協約を締結すべく努力したのであるが、原告組合がこれを拒否した。そこで、原告会社は、やむなく事情変更を理由として週休二日協約を破棄するとともに、分会員各人の個別の労働契約の内容を、事情変更を理由として同年九月一日から変更する旨を口頭で通告し、八月一六日付けの通告書をもって、確認的にこれを通知したのである。

同1の(二)の(22)ないし(25)の各事実は、いずれも認める。

同1の(二)の(26)の事実は、このうち、原告会社が団体交渉を拒否したとの点は否認し、その余の事実は認める。

同1の(二)の(27)の事実は、このうち、朴分会員が山村顧問に対して「黙っていろ。」との発言をするに至った経緯は否認し、その余の事実は認める。

同1の(二)の(28)の事実は、このうち、原告会社が、昭和五二年一一月一九日以降、原告組合との間の団体交渉を拒否しているとの点は否認し、その余の事実は認める。

昭和五二年一一月一九日以降、原告会社は原告組合との間で団体交渉を行っていないが、これについては、後記のとおり正当な理由があり、団交拒否というようなものではない。なお、原告会社は、昭和五二年一一月一九日以降も、原告組合との間の事務折衝は続けている。

同1の(二)の(29)ないし(32)の事実は、このうち、原告会社が団体交渉を拒否したとの事実はいずれも否認し、その余の事実は認める。

2 (一) 同2の(一)の事実は否認し、その主張は争う。

前記1の(二)に記載したとおり、原告会社は、会社再建案の提案以来、原告組合との間で団体交渉を重ね、資料を示して原告会社の経営状態等を詳細に説明するなど、その実施の必要性について原告組合の説得に努めたが、原告組合が、その説明にはまったく耳を貸すことなく、会社再建案の白紙撤回の要求に固執したため、団体交渉の実質的進展がみられなかったのであり、その間、原告会社は、原告組合との間で、誠実に団体交渉を重ねてきた。

そして、昭和五二年八月一一日、原告会社が、週休二日協約の破棄と週休一日・週四〇時間労働制への変更を通告したことにより、分会員らの労働条件は、右通告に従って適法に変更されたものと解すべきことは、以下の(1)及び(2)記載のとおりであって、原告会社が、昭和五二年八月一一日に、九月一日から会社再建案の内容のうち週休一日・週四〇時間労働制を導入することを通告し、かつ、これを実施したこともまた、原告組合の存在を無視したり、その団体交渉権を否定するものではないのである。

(1) 事情変更による労働条件の変更

労働協約も、当該労働協約が転化した個別の労働契約も、一つの契約である以上、契約法理の適用を受けることは避けられない。したがって、〈1〉労使間の諸般の事情が極端に変化し、〈2〉従前の契約(協約)の内容を持続することが信義則に反するに至ったと認められる場合において、〈3〉当該事情の変更がその変更を主張する者の責に帰すべからざる事情に基づき生じたものであって、かつ、〈4〉従前の契約(協約)成立当時、予見し得ざりしものであるときは、契約(協約)の一方当事者は、事情変更の法理により、契約(協約)内容を一方的に変更ないし解除することが許されるものと解される。

これを本件についてみてみると、昭和五二年三月当時、原告会社の経営状況は、まさに危機的状況にあり、週休二日協約に基づく週休二日・週三五時間労働制を改めない限り、原告会社の企業としての存続が不可能な状況であった。すなわち、週休二日協約締結以後、これに起因する人件費の増大によって、原告会社の当期利益は著しく減少し、昭和五一年度には当期利益に欠損を生じるに至り、昭和五二年三月当時の具体的経営状況をみても、〈1〉諸取引代金の支払の延期、社会保険料の支払不能等の事態が生じ、〈2〉従業員に対する賃金の支払についても、賃金支払日当日に取引先から入金のあった金員を従業員に対する賃金の支払に充てることによってようやく賃金の遅配を回避している状態であり、〈3〉役員に対しては、昭和五一年度は賞与の半額支給、昭和五二年四月から同五四年三月までは役員報酬の一〇パーセント減額支給、賞与の不支給の状態が続いていた。〈4〉このような中で、昭和五二年三月ころには、原告会社の取引銀行から、原告会社の経済的規模、人的規模、業種からみて週休二日・週三五時間労働制を採用することの困難さを指摘され、現行の労働条件のままでは赤字の回復は困難であり、融資をすることもできない旨の姿勢を示されるに至った。これに対して、原告会社は、週休一日・週四二時間労働制の導入により生産性の向上を図り、原告会社の再建を図りたいとして融資を懇請し、その結果、ようやく、銀行も労働条件の変更による生産性の向上が見込まれると判断して、融資を了承したのであって、労働条件の変更による生産性の向上は、原告会社が銀行から融資を受ける上でも必須不可欠な条件となっていた。〈5〉また、公害防止、機械の老朽化、食品衛生法上の必要、人件費の削減等の理由から、資金的な余裕がないにもかかわらず設備投資を行わざるを得ず、これも原告会社の資金繰りを悪化させた。

以上のように、昭和五二年三月ころには、週休二日協約に基づく週休二日・週三五時間労働制を改めない限り、原告会社の企業としての存続が不可能な状況であったのであるが、このような経営危機に至ることは、原告会社において、週休二日協約締結当時予見し得なかったばかりか、原告会社の責めに帰すべからざる事情に基づくものであったというべきである。

しかも、前記のとおり、原告会社の従業員の過半数の者をその組合員とする別組合は、昭和五八年八月九日に、週休一日・週四〇時間労働を内容とする新たな労働協約を締結しており、週休一日・週四〇時間労働制の導入に同意することが予想される非組合員である従業員も含めると、原告会社の従業員のうち九〇パーセント以上の者の労働条件が、同年九月一日から、週休一日・週四〇時間労働に変更されることになっていたのである。

これらの事情に照らせば、昭和五二年八月一一日、原告会社が原告組合に対して、事情変更の法理の適用により、週休二日協約を破棄するとともに、週休二日協約によって規律されていた分会員各人の個別の労働契約の内容についても、同法理の適用により、週休一日・週四〇時間労働をその内容とするものに変更する旨を通告したことによって、週休二日協約は適法に解除され、原告会社と分会員との間の個別の労働契約は、週休一日・週四〇時間労働を内容とするものに適法に変更されたものと解すべきである。

(2) 仮に、右(1)の主張が認められないとしても、右(1)記載の事情に照らせば、昭和五二年八月一一日当時、分会員が週休二日協約に基づく週休二日・週三五時間労働という既得の労働条件による権利行使を続けることは、権利の濫用というほかはない。そうであれば、分会員らは、原告会社の就業規則に定める労働条件、すなわち、週休一日・週四〇時間労働の労働条件に従って就労すべき義務を負うものと解される。

以上のとおりであるから、原告会社は、会社再建案に関し、原告組合との間で誠意をもって団体交渉を行うことなく、先に原告組合との間で締結された労働協約を無視して、会社再建案に従って労働条件の変更を強行しようとしたとの事実認定の下に、その行為は、労働組合法七条二号及び三号所定の不当労働行為に該当するとした被告の認定・判断は、明らかに事実の認定及び法的判断を誤るものである。

(二) 同2の(二)の事実は否認し、その主張は争う。

原告会社は、昭和五二年度の賃上げの実施や同年度の夏季一時金の支給に関し、会社再建案の実施と併せて、原告組合との間で誠実に団体交渉を重ねてきたにもかかわらず、原告組合が、会社再建案の白紙撤回を要求し続けたまま、夏季一時金についてのみ別組合と同条件での支給を要求するという主張に固執したため、団体交渉の実質的進展がみられなかったにすぎない。

また、昭和五二年一一月一九日以降、原告会社は、原告組合との間で団体交渉を行っていないが、これについては、次のような正当な理由がある。

(1) 正常な労使関係の破綻

原告組合が、以下のように、正常な労使関係を破壊する行動を取り続けたため、昭和五二年一一月一九日以降原告組合との間の団体交渉を実施することは困難であった。すなわち、〈1〉一一月一九日の団体交渉の席上、分会員である朴が、原告会社の労務担当顧問である山村顧問に対して暴言を吐くなどしたのみならず、その後も、〈2〉同年一一月三〇日、原告組合の吉田委員長が、原告会社の黒川取締役に暴行を加えて傷害を与えた上、右暴行事件が発生した際、高井課長が警察に連絡をしたことをとらえて、同課長に強要して謝罪文を作成させ、〈3〉同年一二月八日、原告会社を組合旗等の窃盗犯呼ばわりし、〈4〉度々行われるストライキに際しては、ストライキ通告書を前日までに提出せず、〈5〉昭和五三年二月九日、伊沢分会員が、飲酒の上、原告会社の工場事務所を訪れ、居合わせた上坂課長に対して「殺してやる。」などの暴言を吐き、〈6〉同年五月一日付けの原告組合作成のビラには、原告会社の名誉を毀損するような記事を掲載するなど、原告組合は正常な労使関係を破壊する行為を続けた。このため、昭和五二年一一月一九日以降、健全な労使関係に立脚した団体交渉の実施を望むことは不可能な状況となっていたのである。したがって、原告会社が原告組合との間の団体交渉に応じなかったことについては、正当な理由があるというべきである。

(2) 交渉の行詰り

また、昭和五二年一一月一九日当時、原告会社は、別組合との間において、週休一日・週四〇時間労働を内容とする労働協約を締結ずみであったことは、前記のとおりであり、原告組合と別組合との間の労働条件の差異を放置したまま、昭和五二年度の賃上げの実施、夏季及び年末一時金の支給には応じられない状況にあった。これに対して、原告組合は、あくまでも会社再建案の白紙撤回を求めており、原告会社と原告組合との間の主張はまったく平行線のままで、双方譲歩の余地がないことは明白であった。そうであれば、このような状況下での交渉申入れは無意味であり、この意味でも、これに応じなかったことについては正当な理由があるというべきである。

以上のとおりであるから、原告会社が、昭和五二年度の賃上げの実施、同年度の夏季及び年末一時金の支給並びに昭和五三年度の賃上げの実施に関し、原告組合との間で、誠意をもって団体交渉を行うことなく、長期間にわたり正当な理由もなく団体交渉を拒否し、賃上げの実施及び一時金の支給がされない状況を作出しているとの事実認定の下に、その行為が、労働組合法七条二号及び三号所定の不当労働行為に該当するとした被告の認定・判断は、明らかに事実の認定及び法的判断を誤るものである。

(三) 同2の(三)の事実は否認し、その主張は争う。

原告会社は、昭和五二年度夏季一時金の支給に関しては、会社再建案の実施や同年度の賃上げの実施と併せて、原告組合との間で誠実に団体交渉を重ねてきたにもかかわらず、原告組合が、会社再建案の白紙撤回を要求したまま、夏季一時金についてのみ別組合と同条件での支給を要求するという主張に固執したため、交渉が成立せずにいたところ、昭和五二年一一月一九日以降は、右(二)の(1)及び(2)記載の事情で原告組合との間の団体交渉が行い得ない事態となったため、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の支給に関して、原告組合との間で交渉が成立せず、その支給を行うことができないにすぎない。

したがって、原告会社が、分会員(伊沢分会員を含む。)及び川尻元分会員に対して昭和五二年度夏季及び年末一時金の支給をしないことは、原告組合の組合員の心理的動揺を誘い、原告組合の弱体化を図るものであるとともに、分会員らに経済的不利益を与えるものであって、労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為に該当する旨の被告の認定・判断は、明らかに事実の認定及び法的判断を誤るものである。

〔乙事件〕

一  請求原因

1 被告に対する再審査申立てに至る経緯及び本件命令の存在

甲事件における請求原因1及び2のとおり。

なお、右命令書は、昭和五八年一月一三日、原告組合に交付された。

2 本件紛争の経緯

甲事件における被告の主張1の(一)及び(二)の(1)ないし(32)のとおり。

3 本件命令の瑕疵

(一) 会社再建案の強行実施の撤回を求める再審査申立てを棄却した点の違法性

会社再建案の提案と、その内容及びこれを巡る交渉経過は、右2記載のとおり(甲事件における被告の主張1の(一)及び(二)の(1)ないし(32)記載のとおり。)であるが、労働協約によって合意された労働条件を一方的に切り下げる会社再建案の強行実施は、まさにそのこと自体において原告組合の労働協約締結権を否定するものであり、また、分会員に対し、現在よりも不利益な労働条件を押しつけることにより、原告組合の団結権を侵害するものであって、労働組合法七条三号所定の不当労働行為に該当する。そして、このような不当労働行為については、支配介入行為そのものを排除することが必要な救済であって、被告が、本件命令主文第二項において、会社再建案の強行実施の撤回を求める原告組合の再審査申立てを棄却した点については、原告会社による会社再建案の強行実施という不当労働行為に対する必要な救済を認めなかった違法がある。

(二) 分会員に対して昭和五二年度及び同五三年度の賃上げを仮に実施すること及び伊沢分会員に対して昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの仮実施を前提としてその退職金の精算をすることを命じた大阪地労委の初審命令を変更して、原告組合の救済申立てを棄却した点の違法性

原告会社は、昭和五二年度及び同五三年度において、別組合の組合員及び非組合員である従業員に対しては賃上げを実施しながら、分会員に対してはこれを実施していない。原告会社のこのような行為は、原告組合の組合員であることを理由とする分会員に対する不利益取扱であるとともに、分会員に対し長期間にわたり経済的圧迫を加えることにより、原告組合の弱体化を図るものであって、労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為に該当する。

したがって、大阪地労委の初審命令のごとく、原告会社と原告組合が昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの実施につき妥結するまでの間、分会員に対して、原告会社と別組合との間の賃上げ妥結額を、その賃上げ実施日に遡って仮に実施すること、本件命令の発令時において既に原告会社を退職していた伊沢分会員に対しては、右のとおり昭和五二年度及び同五三年度の賃上げを仮に実施したことを前提として、その退職金を精算することを命じるべきであって、被告が、本件命令主文第一項第四号において、初審命令を変更して、右の点に関する原告組合の救済申立てを棄却した点には、分会員に対する昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの未実施の不当労働行為該当性についての認定・判断を誤る違法がある。

(三) 昭和五二年度の夏季及び年末一時金の仮支給額の算定に当たり、昭和五五年一二月一九日に、原告会社と原告組合が妥結した昭和五三年度夏季及び年末一時金の仮支給の例に準ずる方法を採用して、原告会社と別組合との妥結額と同額の仮支給を求める救済申立てを一部棄却した点の違法性

(1) 昭和五二年度夏季一時金については、請求原因2で引用した甲事件における被告の主張1の(二)の(19)及び(20)記載のとおり、原告組合は、同年八月一一日の団体交渉において、原告会社が同年八月一〇日に提示した回答のうち、別組合との妥結額と同額の夏季一時金を支給する旨の回答部分については、妥結する旨通告したのであるから、右同日、原告会社と原告組合との間において、昭和五二年度の夏季一時金については、分会員に対しても原告会社と別組合との妥結額と同額を支給することで交渉が妥結したというべきである。したがって、右妥結額の支給をしないことは、原告組合の団体交渉権ないし労働協約締結権を否定するに等しく、右不当労働行為から救済するためには、右妥結額の仮支給を命じるべきであることは明らかである。

(2) また、原告会社が、別組合の組合員及び非組合員である従業員に対しては、昭和五二年度夏季及び年末一時金の支給をしながら、分会員に対してはこれを支給しないことが、労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為に該当することは、被告が正しく認定・判断したところであるが、右不当労働行為からの救済としては、分会員に対して、原告会社と別組合との妥結額と同額の一時金の仮支給を命ずるべきであり、少なくとも、分会員と別組合の組合員及び非組合員である従業員の労働条件が同一であった昭和五二年八月三一日までの期間を支給対象期間とする部分については、原告会社と別組合との妥結額と同額の一時金の仮支給を命ずべきことは明らかである。

(四) 大阪地労委の審問等に出席した分会員の賃金カット分について、その支給を命じた初審命令を変更して、原告組合の救済申立てを棄却した点の違法性

原告会社と原告組合との間には、昭和五二年六月以前において、労働委員会の審問等に出席する組合員については、右審問出席に伴う不就労時間の賃金カットを行わない旨の合意ないし労使慣行が成立していた。しかるに、原告会社は、昭和五二年六月二四日に行われた大阪地労委昭和五二年(不)第四〇号事件の第二回審問期日において、労働委員会の審問に補佐人として出席することに伴う組合員の不就労時間の賃金については、一名以上は保障できない旨の口頭申入れをなし、更に、同月二七日、その旨文書をもって通告した。そして、右の点について何らの合意も成立しないまま、同年七月一五日に行われた同事件の第三回審問期日以降、労働委員会の審問等に出席した分会員の賃金につき、うち一名を除いて、審問等出席に伴う不就労時間に相当する賃金カットを行っている。

右は、原告組合の組合員であることを理由とする分会員に対する不利益取扱であるとともに、原告組合の弱体化を企図した不当労働行為以外の何ものでもなく、その救済を図るため、大阪地労委の初審命令のごとく、右賃金カット分の支給を命じるべきものであるところ、被告が、本件命令主文第一項第四号において、初審命令を変更して、原告組合の救済申立てを棄却した点には、右賃金カットの不当労働行為該当性についての認定・判断を誤る違法がある。

(五) 原告組合の組合員である田野尻分会員の生理休暇中の不就労を理由として賃金カットを行った点についての救済申立てを棄却した初審命令に対する再審査申立てを棄却した点の違法性

(1) 原告組合の組合員である田野尻分会員は、昭和五二年七月二五日から同月二七日までの三日間、原告会社に生理休暇を届け出て就労をしなかった。右生理休暇期間中の七月二六日、田野尻分会員は、大阪地方裁判所に係属中の仮処分事件の申請人としてその審尋期日に出席し、更に、同日午後六時から行われた原告会社との間の団体交渉にも出席したところ、原告会社は、田野尻分会員に対し、右七月二六日分の賃金カットを行った。

(2) また、田野尻分会員は、昭和五三年六月二七日から同月二九日までの三日間、原告会社に生理休暇を届け出て就労をしなかった。右生理休暇期間中の六月二八日に原告組合が行ったストライキの際、田野尻分会員も、この行動に参加し、他の分会員とともに豊中工場の正門前で山村顧問に対して抗議を行うなどしたところ、原告会社は、田野尻分会員に対し、右六月二八日分及び翌二九日分の賃金カットを行った。

田野尻分会員の生理期間中の不就労を理由とする右賃金カットは、いずれも、田野尻分会員が原告組合の組合員であるが故にされた不利益取扱であるとともに、原告組合の弱体化を企図してされた不当労働行為に該当する。被告が、右不当労働行為についての救済申立てを棄却した初審命令を追認し、本件命令主文第二項において、原告組合の再審査申立てを棄却した点には、右賃金カットの不当労働行為該当性についての認定・判断を誤る違法がある。

(六) 原告会社のその他の不当労働行為についての認定・判断の誤り

(1) 原告会社の太田所長による支配介入行為

原告会社の太田所長は、昭和五二年六月一三日、田野尻分会員を大阪営業所のタイプ室に呼び入れ、原告組合が同意していない原告会社の機構改革に従って、その担当事務を行うように強要し、その際、解雇をほのめかすなどの恫喝を行った。右は、原告組合の活動方針に対する明らかな支配介入行為に該当するところ、被告が、右不当労働行為についての救済申立てを棄却した初審命令を追認し、本件命令主文第二項において、原告組合の再審査申立てを棄却した点には、太田所長の右行為の不当労働行為該当性についての認定・判断を誤る違法がある。

(2) 原告会社による刑事告訴の不当労働行為該当性

昭和五二年一一月三〇日に原告組合がストライキを実施した際、黒川取締役が、原告組合が原告会社社屋に貼付したステッカーを無断で剥がすという暴挙を行ったため、原告組合の吉田委員長等がこれに抗議したところ、黒川取締役は、居合わせた高井課長に命じて所轄警察署に連絡をさせた上、後日、右ストライキの際に、吉田委員長が黒川取締役に傷害を負わせたとして、同委員長を傷害罪で事実に基づかない告訴をした。

また、右の所轄警察署への連絡につき、高井課長は、これを謝罪し、原告組合に対して謝罪文を交付したのであるが、後日、原告会社は、鳥海書記長が高井課長に強要して右謝罪文を作成させたなどとして、鳥海書記長を強要罪で事実に基づかない告訴をした。

以上の原告会社の行為は、原告組合の弱体化を企図してされた不当労働行為に該当するところ、被告が、右不当労働行為についての救済申立てを棄却した初審命令を追認し、本件命令主文第二項において、原告組合の再審査申立てを棄却した点には、以上の原告会社の行為の不当労働行為該当性についての認定・判断を誤る違法がある。

(3) 原告組合の組合旗、立看板の撤去の不当労働行為該当性

原告会社は、昭和五二年一二月六日、原告会社本社前に立て掛けてあった原告組合の立看板を無断で撤去し、更に、翌七日には、そのポールを折って組合旗二本を無断で撤去した。右は、原告組合の弱体化を企図してされた不当労働行為に該当するところ、被告が、右不当労働行為についての救済申立てを棄却した初審命令を追認し、本件命令主文第二項において、原告組合の再審査申立てを棄却した点には、以上の原告会社の行為に係る事実認定を誤る違法がある。

4 よって、本件命令中、原告組合の救済申立てを棄却した主文第一項第四号及び主文第二項中、原告組合の再審査申立てを棄却した部分は、いずれも違法であるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は認める。

3 (一) 同3の(一)の事実は、このうち、会社再建案の提案とその内容及びこれを巡る交渉経過については認めるが、その余の事実及び主張は争う。

会社再建案の内容自体は、原告組合の弱体化ないし壊滅を企図したものでも、原告組合の組合員のみを不利益に取り扱うものでもないから、その撤回を命じるのは相当でない。

(二) 同3の(二)の事実は、このうち、原告会社が、昭和五二年度及び同五三年度において、別組合の組合員及び非組合員である従業員に対して賃上げを実施しながら、分会員に対しては、これを実施していないとの点は認めるが、これが労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為に該当するとの点は否認する。

分会員は、昭和五二年九月一日以後も週休二日・週三五時間労働の労働条件の下で就労しているのに対し、別組合の組合員及び非組合員である従業員は、右同日から週休一日・週四〇時間の労働条件の下で就労しており、分会員と他の従業員との右労働条件の差異を考慮すれば、原告会社が、分会員に対して昭和五二年度及び同五三年度の賃上げを実施していないことをもって、分会員に経済的不利益を与えているものとは断定し難い。

(三) 同3の(三)の(1)の事実は、このうち、昭和五二年度夏季一時金について、原告組合と原告会社との間で、甲事件における被告の主張1の(二)の(19)及び(20)記載のとおりの交渉がされたことは認め、原告組合が、同年八月一一日の団体交渉において、原告会社が同年八月一〇日に提示した回答のうち、別組合との妥結額と同額の夏季一時金を支給する旨の回答部分について、妥結する旨通告したことにより、昭和五二年度の夏季一時金についての交渉が妥結したとの主張は争う。

甲事件における被告の主張1の(二)の(20)記載のとおり、原告組合は、原告会社が昭和五二年八月一〇日に原告組合に対して提示した回答書の内容の一部である昭和五二年度の夏季一時金の支給条件についてのみ受諾通告をしたにすぎず、このことをもって、昭和五二年度の夏季一時金の支給に関する交渉が妥結したとはいえない。

同3の(三)の(2)の主張は争う。

(四) 同3の(四)の事実は、このうち、原告会社と原告組合との間において、労働委員会の審問等に出席する組合員については、右審問出席に伴う不就労時間の賃金カットを行わない旨の合意ないし労使慣行が成立していたとの点は否認し、原告組合主張のような経緯で、原告会社が、同年七月一五日に行われた同事件の第三回審問期日以降、審問に出席した分会員の賃金について、うち一名の分を除いて賃金カットを行っているとの点は認め、右賃金カットが不当労働行為に該当するとの点は否認する。

原告会社と原告組合との間において、労働委員会の審問等に出席する組合員については、右審問出席に伴う不就労時間の賃金カットを行わない旨の合意ないし労使慣行が成立していたとはいえない以上、原告会社がかかる便宜供与を一方的に打ち切ったとしても、それが不当労働行為に該当するとはいえない。

(五) 同3の(五)の(1)及び(2)の事実は認めるが、田野尻分会員の生理休暇期間中の不就労を理由とする賃金カットが不当労働行為に該当するとの点は否認する。

田野尻分会員の生理休暇期間中における行動に照らせば、同女において、昭和五二年七月二六日、同五三年六月二八日及び二九日の就労が著しく困難であったとはいえないとした原告会社の判断にも理由があるというべきである。

なお、原告会社は、昭和五二年七月二九日の賃金カット相当分については、同五三年一月に田野尻分会員に対して支給ずみであり、また、同五三年六月二九日の賃金カット相当分については、同五四年五月、その支給を行おうとしたが、田野尻分会員からその受領を拒絶されたため、これを供託した。

(六) 同3の(六)の(1)の事実は、このうち、昭和五二年六月一三日、太田所長が、大阪営業所のタイプ室において、田野尻分会員に対して、原告会社の機構改革に伴い変更された担当事務に就くように説得したことは認め、その余の事実は否認し、その主張は争う。

同3の(六)の(2)の事実は、このうち、昭和五二年一一月三〇日に原告組合がストライキを実施した際、黒川取締役が、原告組合が原告会社社屋に貼付したステッカーを剥がしたため、吉田委員長等がこれに抗議したところ、黒川取締役は、居合わせた高井課長に命じて所轄警察署に連絡をさせ、後日、右ストライキの際に、吉田委員長が黒川取締役に傷害を負わせたとして、同委員長を傷害罪で告訴したこと、また、右の所轄警察署への連絡につき、高井課長が謝罪文を作成して原告組合に交付したこと、後日、原告会社は、鳥海書記長が高井課長に強要して右謝罪文を作成させたなどとして、鳥海書記長を強要罪で告訴したことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

同3の(六)の(3)の事実は否認し、その主張は争う。

4 同4の主張は争う。

三  被告の主張に対する原告組合の反論

1 被告の主張3の(二)に対する反論

被告は、分会員と他の従業員との労働条件の差異を考慮すれば、分会員に対する昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの未実施をもって、経済的不利益と断定し難いとするが、右の労働条件の差異は、別組合及び非組合員である従業員が自ら有利な労働条件を放棄した結果生じたものであり、分会員に対する賃上げの未実施が分会員に経済的不利益を与えるか否かを考察するに当たり、右のような労働条件の差異を考慮に入れることは誤りというべきである。仮に被告のような考え方を採ったならば、分会員が、従うべき根拠のない会社再建案に基づく労働時間(週休一日・週四〇時間労働)を前提に、就労時間がこれに満たない分の賃金カットを受けているに等しい状況を追認することになり、そのような考え方の不当性はあまりにも明らかというべきであろう。

2 同3の(三)の主張に対する反論

被告は、原告会社が昭和五二年八月一〇日に原告組合に対して提示した回答書の内容の一部である昭和五二年度の夏季一時金の支給条件についてのみ受諾通告をしたとしても、夏季一時金に関する交渉が妥結したとはいえないと主張するが、原告会社が、昭和五二年度の夏季一時金の支給に関する交渉妥結の不可欠の条件として付した項目は、原告組合が到底承服することができない程過酷な、そして、労働基準法にも違反するものであり、このような条件は無効というべきである。このような条件をも含めて合意が成立しない限り、交渉の妥結を認めないとしたならば、使用者側は、労働組合がする経済的要求に対して、労働組合が到底承服できないような過酷な差し違え条件を提示し、これに固執することによって、労働組合に経済的不利益を与えることが可能になってしまうのであって、その不当性は極めて明らかであろう。

第三証拠関係〈省略〉

理由

〔甲事件〕

一  請求原因1の(一)及び(二)の事実(被告に対する再審査申立てに至る経緯)、同2の事実(本件命令の存在)、同3のうち、被告が、同3(一)ないし(三)記載のとおりの認定・判断の下に、本件命令の主文第一項第一号ないし第三号の救済命令を発した事実は、いずれも、当事者間に争いがない。

二  被告の主張1(本件紛争の経緯)について

1  被告の主張1の(一)の事実(会社再建案の提案とその内容)は、当事者間に争いがない。

2  そこで、被告の主張1の(二)の事実(その後の交渉経過)について検討する。左記(六)、(七)、(一〇)(一五)ないし(一九)、(二一)ないし(二五)及び(三〇)の事実並びに同(一)ないし(五)、(八)、(九)、(一一)ないし(一四)、(二〇)、(二六)ないし(二九)及び(三一)のうち特にその旨を付記した事実は、いずれも、当事者間に争いがなく、いずれもその成立に争いのない乙第二八、第三〇、第三二、第三七、第四二、第四六、第六〇、第六二、第六四、第六六、第七〇、第一〇一(後記措信しない部分を除く。)、第一〇五、第一〇七、第一〇九、第一二四(後記措信しない部分を除く。)、第一二六、第一二八、第一三〇(後記措信しない部分を除く。)、第一三二(後記措信しない部分を除く。)、第一三四、第一三六(後記措信しない部分を除く。)、第一四〇、第一六三、第一六四、第一八九(乙第一六三号証と同一文書)、第三一三、第三五〇ないし第三五三、第三九一、第四〇六、第四〇七号証、証人堀渕建の証言、弁論の全趣旨によっていずれも真正に成立したことが認められる甲第一、第二号証及び証人堀渕建の証言(後記措信しない部分を除く。)、原告組合代表者尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、左記(一)ないし(五)、(八)、(九)、(一一)ないし(一四)、(二〇)、(二六)ないし(二九)及び(三一)のうちのその余の事実並びに(三二)及び(三三)の事実が認められる。

(一) 会社再建案が提案された昭和五二年三月三一日の団体交渉において、原告会社は、原告組合に対して、「会社再建案」と題するパンフレットを交付するとともに、右パンフレットに従って、会社再建案の内容及びその実施の必要性について概略的説明を行った(この事実は、当事者間に争いがない。)。

なお、この日の団体交渉において会社再建案の説明を担当した黒川取締役は、この段階で、会社再建案の実施(労働条件の変更)を通告したものとの理解で、この日の団体交渉に臨んでいた。

(二) 同年四月四日、原告会社は、原告組合との間で会社再建案提案後最初の団体交渉を行った(この事実は、当事者間に争いがない。)。この団体交渉においては、その頃、原告会社が行った製造部門における充填機の新規導入とこれに伴う機構改革について、職場交渉がされていないなどとする原告組合の抗議が中心となり、会社再建案については、原告会社の経営の合理化の必要性についての若干の説明がされたのにすぎなかった。

(三) 同年四月二二日、原告会社は、原告組合との間で団体交渉を行い、そこで、会社再建案の内容である賃金体系の全面改定の具体的内容について説明を行った(この事実は、当事者間に争いがない。)。右説明により、原告会社が、別紙三の労働条件対比表の番号2の会社再建案欄記載のとおりに賃金体系を改定する意図であること、現行の賃金体系に基づく賃金を新賃金体系によるものに近づけるために、賃上げの実施に当たり人事考課を行い、各人の賃上率に零パーセントから一五パーセントの幅を持たせることを予定していること、その場合、当初パートタイマーとして雇用され、その後に正社員の地位を獲得した者(分会員には、このような者が多く存在した。)は、極端な場合には賃上げが零となるなど、当面の賃上率が低く押さえられるであろうことなどが明らかとなった。

原告組合は、同一年齢同一賃金をその基本的運動方針とし、組合設立以来、原告会社との間で年齢別最低保障賃金を協定してきており、基本給を年齢給のほか、勤続給及び人事考課に基づいて決定される職能給によって構成するものにするという右賃金体系の全面改定は、従前の協定と根本的思想を異にするものであった。そこで、原告組合は、賃金体系の全面改定に反対する意思を明らかにするとともに、職能給の決定に当たって行われる人事考課の内容や、どのようにして人事考課の客観性や合理性が担保されるのかなどの点について原告会社の考えを質した。

このように、同日の団体交渉は、右賃金体系の全面改定の具体的内容の説明とこれに対する質疑、特に人事考課の導入を巡る質疑を中心として行われた。

(四) 同年四月二五日、原告会社は、会社再建案に関し、同月二七日、豊中工場において「会社緊急重大発表」を行うとして、これに全従業員の参加を求めるとともに、欠席者は異議なきものとみなす旨の告示を行い(この事実は、当事者間に争いがない。)、原告組合に対しては、会社再建案の五月一日実施を議題として、四月二六日に団体交渉(「最終団交」と表示されていた。)を行いたい旨を文書で申し入れた。

(五) 同年四月二六日、原告会社は、原告組合との間で団体交渉を行い、その際、翌二七日に「会社緊急重大発表」を行い、そこで会社再建案の五月一日からの実施を決定する旨を述べた(この事実は、当事者間に争いがない。)。

この日の団体交渉には、会社再建案の提案以来初めて、原告会社の経理担当の小川常務も出席した。しかし、原告組合は、原告会社が行った前記(四)記載の告示について抗議し、五月一日からの会社再建案の実施を阻止することに主眼をおいてこの日の団体交渉に臨んだため、会社再建案の内容に関して具体的な交渉を行い得るような雰囲気にはなく、小川常務が、原告会社の経営状態や会社再建案の実施の必要性について、経理関係書類を示すなどして詳細な説明をするということはなかった。

なお、原告会社は、右団体交渉の後、「会社緊急重大発表」については、原告組合及び別組合のボイコットの意向が強かったため、その実施を延期する旨を表明した(この事実は、当事者間に争いがない。)。

(六) 同年五月七日、原告会社は、原告組合との間で団体交渉を行い、その際、五月九日に「会社緊急重大発表」を行って、同月一一日から会社再建案を実施することを決定する旨通告した。

(七) 同年五月九日、原告会社は、分会員及び別組合の組合員の参加がないまま、非組合員及び原告会社の職制ら従業員の一部のみに対して「会社緊急重大発表」を行い、その場で同月一一日から会社再建案を実施することを決定した。

(八) 同年五月一一日、原告会社は、「制度及び計算基準変更について」と題する文書を分会員を含む全従業員に配布し、同日から、会社再建案に沿って労働条件を変更する旨を通知した(この事実は、当事者間に争いがない。)。

しかし、原告会社は、右労働条件の変更通知を行うに先立ち、これと抵触する内容の労働条件を協定した原告組合との間の労働協約については、これを破棄するなどの手続は一切採らなかった。

(九) 同年五月末日、原告会社は、会社再建案に沿って労働条件が変更されたことを否定し、同年五月一一日以降も従来どおりの労働条件によって就労をした分会員らの同月分の賃金の支払に当たって、週休二日制の廃止、生理休暇及び病気欠勤の無給化につき、会社再建案に従って労働条件の変更がされたことを前提とする賃金のカットを行った(この事実は、当事者間に争いがない。)。

右賃金支払に当たって交付された明細書には、会社再建案に基づく賃金体系の改定については、別組合の組合員である担当係長が考課査定を拒否したため労働組合と合意してから行う旨が付記されていた(この事実は、当事者間に争いがない。)ほか、同年五月の段階で、原告会社が、会社再建案に従って労働条件が変更されたことを前提として採った措置は、現実には、右の週休二日制の廃止、生理休暇及び病気欠勤の無給化を前提とする賃金カットだけであった。

(一〇) 同年六月一日、原告会社が行った右賃金カットを巡り団体交渉が行われ、原告組合からの説明要求に対して、原告会社が、分会員各人について賃金カットの理由を具体的に説明した。

(一一) 同年六月一五日、原告会社の右措置につき、天満労働基準監督署の労働基準監督官から、労働契約の変更が適正に行われておらず、右五月分の賃金の支払方法は、労働基準法二四条に違反しているので、差額を速やかに支払うように勧告がされた。このため、原告会社は、六月三〇日に、右賃金カット分を支払った(以上の事実は、当事者間に争いがない。)が、その際、原告会社は、右賃金カット分の支払は仮の支払にすぎないとして、五月一一日からの会社再建案の実施(会社再建案に従った労働条件の変更)の意思は撤回しないことを明らかにした。

(一二) 同年六月一八日、原告会社の黒川取締役は、原告組合に対して、会社再建案を提案した三月三一日から九〇日を経過する六月三〇日から、会社再建案を実施する旨を口頭で通告した(この事実は、当事者間に争いがない。)。この会社再建案の実施通告は、黒川取締役において、前記三月三一日の会社再建案の提案が、会社再建案に抵触する内容を持つ従来の労働協約についての解約予告の効力を有するものであるとの理解に立って行ったものであった。

そして、原告会社は、その頃から、会社再建案の内容であるパートタイマー制を導入するとともに、新入社員に対しては、新賃金体系に基づき賃金を支払っている(この事実は、当事者間に争いがない。)。

(一三) 同年六月二二日、原告会社と原告組合との間で団体交渉が行われ(この事実は、当事者間に争いがない。)、原告会社が同年五月一一日から会社再建案を実施したとしていたことと、六月一八日にした六月三〇日からの実施通告との関係についての質疑が行われた。

この日の団体交渉には、小川常務も出席し、先に六月七日に行われた団体交渉において、原告組合から提出されていた昭和五二年度夏季一時金の支給要求につき、資金繰りの目処が立たないため支払が困難である旨を述べるなど、原告会社の経営状態が苦しいことを口頭で若干説明した。

(一四) 同年六月二八日、原告会社と原告組合との間で団体交渉が行われた(この事実は、当事者間に争いがない。)が、この日も、会社再建案については、原告会社が、五月一一日から会社再建案を実施したとしていたことと、六月一八日にした六月三〇日からの実施通告との関係についての質疑が中心となり、会社再建案の内容に関する交渉には至らなかった。

(一五) 同年七月四日、原告組合は、昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給につき、大阪地労委に対して斡旋を申請したが、原告会社は、同年七月六日に行われた団体交渉において、昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給について、会社再建案と切り離して話し合うことはできないとの態度を示した。

なお、右斡旋申請については、大阪地労委の斡旋委員の説得により、同年七月二一日、夏季一時金についてのみ斡旋が行われたが、原告組合が、会社回答額(基本給の〇・六五か月分)は低額であるとして承諾しなかったため、同日、斡旋は打ち切られた。

(一六) 同年七月二六日、原告会社は、原告組合との間で団体交渉を行い、会社再建案のうち、〈1〉初任給の改定、〈2〉賃金体系の改定、〈3〉労働時間の延長(週休二日制の廃止)、〈4〉残業割増率の改定、〈5〉遅刻、早退の賃金カットを厳密に行うこと、〈6〉社会保険の掛金の労使負担割合を労使折半にすること、〈7〉パートタイマー制を導入することの七項目の実施を提案したが、原告組合はこれを承認せず、同日も交渉の実質的進展はみられなかった。

(一七) 同年八月五日、原告会社は、原告組合との間で団体交渉を行い、昭和五二年度の賃上げ及び夏季一時金に関する最終回答として、〈1〉九月一日からの週休一日・週四二時間労働制の実施、〈2〉営業におけるルートの縮小と売上げの増進、〈3〉工場における時差出勤によるロスタイムの解消を条件として、会社再建案の内容である賃金体系の改定に沿う形での査定を行った上で基本給の平均七パーセントの賃上げを妥結月から実施し、出勤状況による査定を行った上で夏季一時金として基本給の一・三か月分を支給する旨の最終回答を行った。

(一八) 他方、原告会社は、同年七月二三日から八月八日までの間、別組合との間において、昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給について団体交渉を重ね、八月九日、〈1〉八月分賃金から、現行基本給の平均七パーセントの賃上げを実施することと、その配分は、労使で賃金小委員会を設置して、賃金体系の是正を考慮して協議決定すること、〈2〉夏季一時金については、欠勤控除を行った上、現行基本給の一・三五か月分を八月一三日及び同月三一日に分割して支給すること、〈3〉九月一日から、週休二日制を廃止して週休一日・週四〇時間労働制とすること、〈4〉営業におけるルートの縮小と売上げの増進、工場における時差出勤によるロスタイムの解消等について現場における条件を労使で検討して九月一日から実施すること、〈5〉原告会社は別組合に対して解決一時金を支払うことを内容とする協定をした。

(一九) 同年八月一〇日、原告会社は、原告組合に対して、別組合との間で妥結した右(一八)記載の協定のうち、〈5〉記載の解決一時金の支払に関する部分を除くその他の部分と同一内容の回答書を提示した。

(二〇) 同年八月一一日に行われた団体交渉において、原告組合は、右(一九)記載の回答のうち、夏季一時金の支給額とその支給方法については妥結する旨通告したが、原告会社は、他の条件を含めた一括妥結でなければ夏季一時金の支給には応じられないとして、夏季一時金の支給額及びその支給方法についてのみ協定することを拒否し、この日の団体交渉に出席していた黒川社長自らが、(一八)の〈3〉記載の週休一日・週四〇時間労働制の導入及び同〈4〉記載の営業、製造の合理化については、原告組合の同意がなくても九月一日から実施する旨を通告して、同日の団体交渉を終わった(以上の事実は、当事者間に争いがない。)。

なお、同日の団体交渉において、原告会社は、右のとおり、週休一日・週四〇時間労働制の導入及び営業、製造の合理化について、九月一日から実施する旨を通告したにすぎず、これに反する内容の週休二日協約を破棄する旨の明確な意思表示をしたり、その破棄の法的根拠を明確にしたということはなく、また、分会員各人に対して、個別の労働条件の変更を通告したということもなかった。

(二一) 同年八月一六日、原告会社は、原告組合に対して、労働組合法一七条に基づき、すべての従業員の労働条件を同一に取り扱う必要があるとして、前記(一八)記載の別組合との協定の内容(ただし、〈5〉記載の解決一時金の支払に関する部分を除く。)を原告組合にも実施するとの趣旨の通告書を交付した。

(二二) その後も、同年八月二七日に、原告会社と原告組合との間で団体交渉が行われたが、原告会社は、あくまでも前記(一九)記載の回答どおりの条件で妥結することを求め、原告組合はこれに応じなかったため、交渉の進展はみられなかった。

(二三) 原告会社は、同年九月一日から、全従業員に対して週休一日・週四〇時間労働制を実施したが、分会員らは、従前どおり、週休二日・週三五時間で就労を続ける一方、九月二二日には、七月一九日に現行労働条件等保全の仮処分を申請していた大阪地方裁判所において、週休二日協約の勤務時間及び休日の定め(週休二日・週三五時間労働制)に従ってのみ就労する義務があることを仮に定める旨の決定を得た。

(二四) このため、原告会社は、右決定に従い、同年九月以降も、分会員に対する賃金の支払に当たり、週休一日・週四〇時間労働制を前提とする不就労を理由として賃金カットを行ってはいないが、右決定後も右(二〇)及び(二一)記載の週休一日・週四〇時間労働等の実施通告を撤回することはなく、右決定後の同年一〇月一一日に行われた団体交渉においても、週休一日・週四〇時間労働制の導入及び営業、製造の合理化を含めた一括妥結でなければ、賃上げの実施及び夏季一時金の支給には応じられないとの主張を変えなかった。

(二五) このような中で、原告組合は、同年一〇月二七日、昭和五二年度の年末一時金として、基本給の三・五か月分に一律一〇万円を付加した額を一二月一〇日に支給することを求める要求書を原告会社に提出し、同日の団体交渉において、その要求内容を説明した上、これに対する回答を一一月四日に行うことを求めた。

(二六) 同年一一月四日、原告会社は、原告組合が申し入れていた同日の団体交渉を拒否して、昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給につき、週休一日・週四〇時間労働制の導入及び営業、製造の合理化を含めて一括妥結した上で、年末一時金交渉を行うことを要請する旨を文書をもって回答した(以上の事実は、原告会社が団体交渉を拒否したとの点を除き、当事者間に争いがない。)。

(二七) 同年一一月一九日に行われた団体交渉において、原告組合は、原告会社の右(二六)記載の回答に抗議するとともに、年末一時金についての有額回答を求めたが、原告会社は、昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給につき、週休一日・週四〇時間労働制の導入及び営業、製造の合理化を含めて一括妥結しない限り、年末一時金交渉には入れないとの主張を繰り返したにとどまった(この事実は、当事者間に争いがない。)。

なお、同日の団体交渉は、右(二六)記載の回答に対する抗議のほかにも、先に、黒川取締役が「五分でも団体交渉である。」と述べたとして原告組合が激しく抗議をするなど、紛糾した雰囲気にあったところ、原告会社の交渉員である山村顧問が、原告組合の運動方針について批判的な発言をしたのに対し、朴分会員が「黙っていろ。」と発言し、山村顧問が「黙っていたら交渉はできない。」と応酬し、また、その際に同席した原告組合の本部執行委員である大谷本部執行委員(非分会員)について、山村顧問が「あの男は誰だ。名を名乗れ。」と発言し、これに対して原告組合の組合員らが、大谷本部執行委員は、本部執行委員として分会結成以来団体交渉には出席しており、原告会社側が知らないはずはないとして反論するなどのやりとりがあった。

(二八) 原告会社は、同年一一月二一日、原告組合に対して、〈1〉右朴分会員の発言の取消しと謝罪を行うこと、〈2〉支援組合員は氏名を明らかにすることを求め、これに応じない限り今後一切の団体交渉を行わない旨を文書をもって申し入れ(この事実は、当事者間に争いがない。)、その後、原告組合との間の団体交渉を拒否するに至った(なお、一一月一九日以後における原告会社の団体交渉拒否に正当な理由があるか否かについては、後記四の2において認定説示する。)。

(二九) 右(二八)記載のとおり、原告会社が、昭和五二年一一月一九日以後、原告組合との間の団体交渉を拒否している中で、原告組合は、昭和五三年三月一六日、同年四月一日から一律四万円の賃上げを行うこと、右賃上げの実施については一切査定を行わないことを内容とする要求書を提出し、要求内容の説明のための団体交渉を求めた(この事実は、当事者間に争いがない。)が、原告会社は、これを拒否した。

(三〇) 原告会社は、右賃上げ要求に対する回答指定日である同年三月二八日になっても何らの回答を行わず、これに抗議をした原告組合に対して、堀渕総務部長が、週休二日制の廃止問題並びに昭和五二年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給について一括して協定が成立するまでは、昭和五三年度の賃上げの実施については回答をすることはできない旨述べた。

(三一) 原告組合は、同年三月三〇日、四月一六日、四月一八日及び五月八日に、それぞれ、昭和五三年度の賃上げ等に関しての団体交渉を申し入れた(この事実は、当事者間に争いがない。)が、原告会社は、これらをいずれも拒否した。

(三二) その後も、原告会社は、昭和五五年二月七日まで、原告組合との間の団体交渉の拒否を続けた。その間、原告会社は、原告組合に対して、昭和五四年五月七日付け書面をもって、昭和五二年度、同五三年度及び同五四年度の賃上げの実施、昭和五二年度の年末一時金並びに昭和五三年度の夏季及び年末一時金の支給についての回答を示したが、右回答の際も、原告会社としては、昭和五二年度の賃上げの実施及び同年度の夏季一時金の支給については、週休二日・週三五時間労働制の廃止を承諾することを条件としてのみこれを行う意思を変えなかった。

(三三) 原告会社は、大阪地労委が、昭和五四年一二月二七日に、昭和五二年度の賃上げの実施、同年度の年末一時金の支給、昭和五三年度の賃上げの実施並びに同年度の夏季及び年末一時金の支給等に関し、速やかに団体交渉を行うことを命ずる別紙一の救済命令を発したのを受けて、昭和五五年二月七日から、原告組合との間で団体交渉を再開した。そして、右団体交渉は、その後、昭和五四年度以降の賃上げや夏季及び年末一時金等の問題をも交渉事項に加えて、継続して行われている。

しかし、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の支給に関しては、再開後の団体交渉においても、原告会社が、週休一日・週四〇時間労働制の導入との一括妥結以外はあり得ないとの態度を示したため、本件命令の発令時まで、この点についての団体交渉は棚上げにされ、このため、分会員に対する同年度の夏季及び年末一時金は支給されていない。これに対し、昭和五三年度以降の夏季及び年末一時金については、昭和五二年度のそれと切り離して交渉が行われ、その都度、仮支給の協定が成立している。

また、分会員に対する賃上げについては、再開後の団体交渉において、昭和五二年から同五五年度分の賃上げを併せて議題としたが、原告会社が、分会員と別組合の組合員及び非組合員である従業員との単位時間当たりの賃金は同一であるべきであるとの考えから、昭和五二年度及び同五三年度については、分会員の賃金を昭和五一年度の基本賃金のままに据え置いても、別組合の組合員及び非組合員である従業員の賃上げ実施後の賃金と対比して、その単位労働時間当たりの賃金が高額となるとして、右両年度の賃上げ額は零とするよりほかないが、分会員の賃金を昭和五一年度の基本賃金のままに据え置いた場合に、これが、別組合の組合員及び非組合員である従業員の賃上げ実施後の賃金と対比して、単位労働時間当たりの賃金が低額となる昭和五四年度以降については、単位時間当たりの賃金を同額にする限度で賃上げを行う旨主張したため、労働時間の差異を考慮することなく、大阪地労委の救済命令の主文第二項本文記載のとおりの賃上げ実施を要求する原告組合との間で交渉が難航し、結局、本件命令の発令時までに、昭和五二年度及び同五三年度分の賃上げの実施に関する交渉は、妥結するに至っていない。

以上の事実が認められ、この認定に反する趣旨に帰着する乙第一〇一、第一二四、第一三〇、第一三二及び第一三六号証の各記載部分並びに証人堀渕建、同小川謳及び原告組合代表者の各供述部分は、いずれも、前掲各証拠に照らして措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  会社再建案実施を巡る原告会社の行為の不当労働行為該当性

1  昭和五二年三月三一日の会社再建案の提案から同年五月一一日の労働条件変更通知に至るまでの間の原告会社の行為の不当労働行為該当性について

まず、原告会社が会社再建案の実施ないしその内容の一部をなす労働条件の一方的変更を企図して行った行為のうち、昭和五二年三月三一日に会社再建案を提案してから、同年五月一一日に「制度及び計算基準変更について」と題する文書を分会員を含む全従業員に配布し、同日から会社再建案に従って労働条件を変更する旨を通知するまでの間における原告会社の行為の不当労働行為該当性について検討する。

前記二の1に説示のとおり、会社再建案の内容は、その提案当時に原告会社と原告組合との間で締結されていた労働協約に基づく別紙三の労働条件対比表の旧労働条件欄記載の労働条件(ただし、同表の番号15を除く。)を、同表会社再建案欄記載のとおり労働者に不利益に変更するものであり、その変更内容は、労働時間を延長し、休日を削減するばかりか、そこで予定された賃金体系の全面改定は、原告組合の基本的方針に反するものであり、しかも、賃金体系の全面改定を実現するために、当面、分会員の賃上げ率が低く押さえられることが予想されるなど、分会員の基本的な労働条件を大幅に不利益に変更するものであったことが明らかである。

そうであるにもかかわらず、原告会社は、会社再建案を提案した昭和五二年三月三一日から同年五月一一日までの間において、原告組合の団体交渉権を尊重して誠実に団体交渉を行うことなく、右五月一一日に、一方的に会社再建案の内容に従った労働条件の変更を、分会員を含む全従業員に通知したものであることは、前記二の2で認定説示した交渉経過に鑑みて明らかである。以下、敷衍して説明する。

すなわち、〈1〉原告会社は、右三月三一日から五月一一日までの間に、再建案の提案とその概略を説明した三月三一日の団体交渉を含めて、わずか五回しか原告組合との間の団体交渉を行っていないこと、〈2〉三月三一日の会社再建案の提案に当たり、その内容及び必要性の説明に当たった原告会社の黒川取締役は、会社再建案提案の段階で、既に会社再建案の実施を通告したとの理解で団体交渉に臨んでいたこと、〈3〉原告会社は、会社再建案につき、わずか三回の団体交渉(そのうち、四月四日の団体交渉では、会社再建案についての交渉はほとんどされなかった。)を行っただけの四月二五日には、早くも前記二の2の(四)説示の告示を行い、同月二七日に豊中工場において、全従業員の参加を求めて、「会社緊急重大発表」を行い、会社再建案についての個別の同意を取り付けることにより、五月一日から会社再建案に沿った労働条件の変更を実現する意図であることを明確にしたこと、〈4〉そして、原告組合との間の団体交渉については、翌二六日に行うことを申し入れた団体交渉を最終団交とする意思を明らかにしたこと、〈5〉右二六日の団体交渉以後五月一一日までの間に行われた二回の団体交渉は、原告会社が、会社再建案の実施を通告したのに対して、原告組合がその中止を要求するということに終始し、その具体的内容に関する討議はほとんど行われなかったことなど、前記二の2認定説示に係る交渉経過から明らかな諸点に鑑みると、会社再建案は、分会員の基本的な労働条件に関する重大な変更を内容とするものであるにもかかわらず、三月三一日から五月一一日までの間に原告会社が原告組合との間で行った団体交渉は、原告組合の団結権を尊重して、誠意をもって団体交渉に臨んだとは認め難いものであったというほかはない。

しかして、団体交渉は、労働組合がその団結力を背景として、その構成員の労働条件について、労使対等の立場に立って自主的に交渉することをその本質とするものであり、憲法及び労働組合法の規定による団体交渉権の保障も、このような団体交渉を労働組合の基本的権利として保障することを目的としたものである。したがって、使用者が団体交渉を全面的に拒否した場合のみならず、団体交渉は行われたものの、使用者が、労働組合の有する団体交渉権を尊重して、誠意をもって団体交渉に当たったとは認められないような場合も、かかる使用者の行為は、労働組合法七条二号により不当労働行為とされるべき団体交渉の拒否に当たると解されるべきである。そうであれば、右の期間における会社再建案に関する原告会社の交渉態度は、同法七条二号所定の不当労働行為に該当するものというほかはない。

しかも、原告会社は、昭和五二年三月三一日に会社再建案を提案してから、同年五月一一日に全従業員に対して労働条件の変更通知をするまでの間、会社再建案と抵触する内容の労働条件を定めた原告組合との間の労働協約につき、労働組合法一五条三項所定の解約予告をしていないことはもとより、解約手続を何ら採っていないことは、前記二の2の(八)に認定したとおりであって、原告会社において、原告組合との間で締結された労働協約を無視したまま、会社再建案に従った労働条件の変更を行おうとしたことは疑いをいれる余地がない。

このように、原告会社が、原告組合の団体交渉権を尊重し、誠意をもって団体交渉を行わなかったばかりでなく、原告組合との間で締結された労働協約を無視する態度に出たことは、原告組合の団体交渉権及び労働協約締結権を無視ないし軽視するものであって、ひいては、原告組合の団結権やその存在自体を軽視するものといえる。そして、原告会社がこのような態度を取ることは、原告組合の組合員の心理的動揺を誘うなど、原告組合の組合活動一般に対する侵害的効果を必然的に伴うものであるとの評価をも免れることができない。そうであれば、右の期間における会社再建案の実施を巡る原告会社の交渉態度は、労働組合法七条三号所定の不当労働行為にも該当するものというべきである。

2  昭和五二年五月一一日以後の原告会社の行為の不当労働行為該当性について

次いで、右五月一一日の労働条件の変更通知以後の原告会社の行為の不当労働行為該当性について検討する。

〈1〉右五月一一日以後も、原告会社は、原告組合との間で、会社再建案に関する団体交渉を継続したこと、〈2〉その間、同年七月二六日には、会社再建案の内容のうち、前記二の2の(一六)説示の七項目の実施を提案したり、同年八月五日には、分会員の労働条件の変更に関わる事項についての会社の提案を九月一日からの週休一日・週四〇時間労働制の実施と営業及び製造の合理化の実施に縮小して提案し、同月一一日には、右提案を前提とした団体交渉を行うなどしたことは、前記二の2に認定したとおりである。

しかしながら、原告会社は、〈3〉原告会社と原告組合との間で締結された週休二日協約や生理休暇及び病気欠勤につき有給とする旨を定めた協約につき、適法な解約手続を採らないまま、五月分の賃金の支払に当たって、前記五月一一日の労働条件の変更通知に基づき、週休二日制の廃止、生理休暇及び病気欠勤の無給化を前提とする賃金のカットを行ったこと、〈4〉右措置に対して、天満労働基準監督署の労働基準監督官から是正勧告を受けた後も、五月一一日の労働条件の変更通知自体は撤回しなかったこと、〈5〉その後も、週休二日協約をはじめとする、会社再建案と抵触する内容の労働条件を定めた原告組合との間の労働協約につき、労働組合法一五条三項所定の解約予告はもとより、何らの解約手続も採らないまま、六月一八日には、前記三月三一日から九〇日を経過する六月三〇日からの会社再建案の実施を通告し、〈6〉更に、八月一一日には、九月一日から週休一日・週四〇時間労働制を実施する旨を通告し、〈7〉同月一六日には、労働組合法一七条に基づき、すべての従業員の労働条件を同一に取り扱う必要があるとして、別組合との間で締結された週休一日・週四〇時間労働等を約した協約の内容を原告組合にも実施する旨を通告したこと、〈8〉以後、右八月一一日ないし同月一六日の通告を撤回したことはなく、原告組合に対して、週休一日・週四〇時間労働制の下で就労することを求め続けてきたこともまた、前記二の2に認定した交渉経過から明らかである。

使用者と労働組合との間で締結された労働協約は、それが期間の定めのないものであれば、その一方当事者は、労働組合法一五条三項所定の解約予告を経た上でこれを解約することが可能ではあるが、このような解約手続が採られない以上、組合員の労働条件を有効に規律するものであることは明らかである上、仮に、一の事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときといえども、他の労働者が、他の労働組合の組合員である場合には、右他の労働組合の団結権ないし団体交渉権を尊重する上からも、他の労働組合の組合員である労働者には、労働組合法一七条所定の労働協約の一般的拘束力は及ばないものと解すべきである。そうであれば、右〈3〉ないし〈8〉記載のごとき原告会社の行為は、原告組合との間で締結した週休二日協約をはじめとする労働協約が有効に存在していることを無視して、労働組合法の誤った解釈を前提に、労働条件の変更を強行しようとする態度に終始したものというほかはない。そして、右〈3〉ないし〈8〉記載のごとき原告会社の態度に照らすならば、右〈1〉及び〈2〉記載の事実にもかかわらず、原告会社は、五月一一日以降もまた、原告組合の団体交渉権を尊重して誠意をもって、会社再建案を巡る団体交渉に臨んだものとは評価し難く、また、このような原告会社の態度は、原告組合の団体交渉権及び労働協約締結権を無視ないし軽視するのみならず、原告組合の団結権やその存在自体を軽視するものであって、原告組合の組合員の心理的動揺を誘うなど、原告組合の組合活動一般に対する侵害的効果を必然的に伴うものであるとの評価をも免れることができない。

したがって、昭和五二年五月一一日以後における、会社再建案の実施ないしその内容の一部をなす労働条件の変更を巡る原告会社の交渉態度もまた、労働組合法七条二号及び三号所定の不当労働行為に該当するものというほかはなく、右は、前記1に認定した昭和五二年三月三一日から同年五月一一日までの間における原告会社の不当労働行為と一連の不当労働行為を構成するものというべきである。

3  事情変更による労働条件の変更等の主張(被告の主張に対する認否及び原告会社の反論2の(一)の(1)及び(2)の主張)について

原告会社は、昭和五二年八月一一日に、原告会社が、事情変更を理由として原告組合との間の週休二日協約を破棄するとともに、右協約によって規律されていた分会員の個別の労働契約についても、同法理の適用により週休一日・週四〇時間労働をその内容とするものに変更したから、原告会社が、九月一日からこれを実施したことは、原告組合の存在を無視したり、その団体交渉権を否定するものではない旨主張するので、この点について判断する。

原告会社主張のように、協約当事者が協約締結時にまったく予見し得なかった異常な事態が発生し、当該協約を維持するのが社会通念上著しく不相当な場合には、理論上、事情変更の法理の適用による労働協約の解約を認める余地がないわけではない。しかし、労働組合法一五条が定める労働協約の締結及び解約における要式性との権衡上、事情変更を理由とする労働協約の解約についても、当事者の署名又は記名押印のある書面をもってされることを要すると解するのが相当である。のみならず、有効期間の定めのない労働協約については、当事者の一方は、労働組合法一五条三項所定の解約予告をすることによってこれを解約することが認められているのであるから、事情変更の法理の適用による労働協約の解約は、右解約予告をすることも困難であるような極めて緊急かつ逼迫した事態が生じた場合に限り認められるにすぎないと解すべきである。更にまた、事情変更を理由として労働協約が解約されたとしても、その後において使用者が一方的に労働条件を労働者に不利益に変更することは、就業規則の変更をもってしても原則として許されず、就業規則の不利益変更に合理性が認められる限りにおいてこれが許されるにすぎないことに徴すれば、就業規則による労働条件の一方的不利益変更の合理性が肯認されるような特別の事情がない限り、個別の労働契約の内容を使用者の一方的意思表示によって労働者に不利益に変更することはできないと解すべきである。

これを本件についてみてみると、八月一一日の団体交渉において、原告会社が、明示的に、事情変更を理由とする週休二日協約の破棄の意思表示をしたことも、また、分会員各個人に対して、同法理の適用による個別の労働契約の変更の意思表示をしたこともないことは、前記二の2の(二〇)において認定したとおりであり、また、同日の団体交渉において、黒川社長が、九月一日から週休一日・週四〇時間労働制を実施する旨通告したことをもって、事情変更を理由とする労働協約の解約の効果を有する意思表示と解することができないことは、右に説示したところから明らかである。

のみならず、その成立に争いのない乙第一五七号証によれば、原告会社が原告組合との間で締結した週休二日協約は、有効期間の定めのない労働協約であることが明らかであるところ、本件において、原告会社が、労働組合法一五条三項所定の解約予告も待たずに、週休二日協約を解約しなければならないような極めて緊急かつ逼迫した事態が生じていたことや、また、原告会社による労働条件の一方的不利益変更の合理性を肯認するに足りる証拠はなく、このことは、以下に認定説示するとおりである。

すなわち、前掲乙第六〇、第七〇、第一〇五、第一二四、第一二六、第一三二、第一三四、第一三六号証、いずれもその成立に争いのない乙第一三八、第三〇一、第三〇三、第三四〇ないし第三四二、第三七八、第三八一ないし第三八四号証によれば、〈1〉原告会社は、毎年二月一日から翌年一月末日までをその事業年度として、年一回の決算を行っているところ、週休二日・週三五時間労働制を実施する前の昭和四九年度には、金五〇九一万余円の当期利益を上げていたものが、昭和五〇年度には、わずか金五五三万余円の当期利益しか上げられず、昭和五一年度の決算においては、金一四六七万五〇四四円の当期欠損を生じたこと、〈2〉週休二日・週三五時間労働制を実施するようになった昭和五〇年度から昭和五二年度までの間の原告会社の人件費は年々増加し、前年度と対比したときの伸び率は、売上げの伸び率を上回っていたこと、〈3〉原告会社は、昭和五一年度及び同五二年度に、大規模な設備投資を行い、その金額は、昭和五一年度において金五三九五万九四七〇円に、同五二年度において金九四三五万七八〇一円にものぼったため、これが、原告会社の借入金の増大を招き、資金繰りの苦しい状況を生むに至ったこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右各証拠のほか、前掲乙第一〇一、第一四〇号証、いずれもその成立に争いのない乙第一四四、第三六八ないし第三七六、第三九三ないし第三九六号証によれば、〈4〉原告会社は、昭和五一年度の決算において当期欠損を生じたとはいえ、同年度においてもなお、金一四九万三四六八円の繰越利益を計上することができ、翌昭和五二年度の決算では、再び当期利益を上げ、株主に対する中間配当の実施や役員賞与の支給を行うこともできたこと、〈5〉昭和五〇年度から同五二年度にかけて人件費が増加したとはいうものの、それが週休二日・週三五時間労働制の実施に伴う大幅な人員増加に起因するものであるとは断定できないのみならず、週休二日協約の締結当時に予想できなかったような事態であるともいえないこと、〈6〉昭和五一年度及び同五二年度における大規模な設備投資の中には、公害防止や食品衛生法に関わる行政指導に従ってやむなく行われたものもないではないものの、生産性の向上を企図した新型の充填機の導入等も行われ、右設備投資により、以後の生産能力の向上が見込まれていたこと、〈7〉更に、原告会社は、昭和五一年には、株式会社近藤牛乳との共同出資により株式会社関西近藤牛乳を設立し、同社との業務提携による団地向けの牛乳販売を開始しており、昭和五二年当時は、これに伴う売上げの増加も見込まれていたこと、以上〈4〉ないし〈7〉の事実が認められ、これらの事実に照らしてみれば、昭和五二年八月一一日当時、週休二日協約の締結に伴う人件費の増大が最大の原因となり、これを改めない限り、原告会社の企業としての存続が不可能な状況にあったとは到底認め難く、前記〈1〉ないし〈3〉の事実があるからといって、これらの事実をもって、週休二日協約の締結時にまったく予見し得なかった異常な事態が発生したものとも、また、昭和五二年八月一一日当時、右協約を維持するのが社会通念上著しく不相当な状態になっていたものともいうことはできない。右認定に反する趣旨に帰着する乙第四四、第五八、第六八、第一二八、第一三六号証の各記載部分及び証人小川謳の供述部分は、前掲各証拠に照らして措信することができない。

なお、原告会社は、昭和五二年八月九日に別組合との間で週休一日・週四〇時間労働を内容とする労働協約を締結し、週休一日・週四〇時間労働制の導入に同意することが予想される非組合員である従業員も含めると、原告会社の全従業員の九〇パーセント以上の者の労働条件が、九月一日から週休一日・週四〇時間労働に変更されることになっていたことをも、原告組合との間で締結された週休二日協約の解約を根拠付ける事情変更の一事由として主張するけれども、右主張は、原告組合が、憲法及び労働組合法によって保障された団体交渉権ないし労働協約締結権を否定するに等しく、到底左袒することはできない。

以上のほか、本件全証拠を精査しても、事情変更を理由とする週休二日協約の解約やその後における原告会社による労働条件の一方的不利益変更の合理性を認めるべき事情を肯認させる証拠は見当たらないから、結局、事情変更を理由とする週休二日協約の解約の主張(被告の主張に対する認否及び原告会社の反論2の(一)の(1)の主張)は、失当として排斥を免れない。

また、原告会社は、昭和五二年八月一一日当時、分会員が週休二日協約に基づく既得の権利を行使することは権利の濫用に当たる旨も主張する(被告の主張に対する認否及び原告会社の反論2の(一)の(2)の主張)が、右に認定したところに照らせば、右主張も失当として排斥を免れないことが明らかである。

4  以上のとおりであるから、会社再建案の実施ないしその内容の一部をなす労働条件の変更を巡る原告会社の一連の交渉態度は、原告組合の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に臨んだとは評価し難く、また、このような原告会社の態度は、原告組合の団体交渉権及び労働協約締結権を無視ないし軽視するのみならず、原告組合の団結権やその存在自体を軽視するものであって、右は、原告組合の組合員の心理的動揺を誘うなど、原告組合の組合活動一般に対する侵害的効果を必然的に伴うものであるとの評価をも免れることができない。したがって、これが、労働組合法七条二号及び三号所定の不当労働行為に該当する旨の被告の認定・判断には、何ら違法はない。

四  昭和五二年度の賃上げの実施、同年度の夏季及び年末一時金の支給並びに昭和五三年度の賃上げの実施に関する団交拒絶の不当労働行為該当性

1  昭和五二年三月三一日から同年一一月一九日までの間における、昭和五二年度の賃上げの実施並びに同年度の夏季及び年末一時金の支給に関する原告会社の交渉態度の不当労働行為該当性について

前記二の2に認定した交渉経過によれば、原告会社は、〈1〉昭和五二年三月三一日に、同年度の賃上げ実施の条件として会社再建案の提案を行い、以後、同年度の賃上げの実施に関する団体交渉では、その実施条件である会社再建案を巡って行われたこと、〈2〉同年六月七日の団体交渉において原告組合から提出された同年度の夏季一時金の支給要求に対しては、大阪地労委の斡旋により、会社再建案とは切り離して、基本給の〇・六五か月分の支給を回答したものの、同地労委の斡旋が一回で打ち切られた後は、これについても、同年九月一日から週休一日・週四二時間労働制を導入すること及び営業、製造の合理化を図ることを条件として支給するとの態度を取るに至ったこと、〈3〉同年八月一一日の団体交渉以後は、週休一日・週四〇時間労働制を導入すること及び営業、製造の合理化を図ることを条件としてのみ、昭和五二年度の賃上げの実施及び同年度の夏季一時金の支給を行うとの態度に終始したこと、〈4〉同年一〇月二七日に原告組合から提出された同年度の年末一時金の支給要求については、これに対する回答を拒否し、昭和五二年度の賃上げの実施及び同年度の夏季一時金の支給につき、週一日・週四〇時間労働制の導入及び営業、製造の合理化を含めて一括妥結した後でなければ、同年度の年末一時金の支給に関する団体交渉にすら入れないとの態度を取ったこと、以上の事実が明らかである。

そして、昭和五二年度の賃上げの実施及び同年度の夏季一時金の支給の条件とされた会社再建案ないしその内容の一部をなす労働条件の変更を巡る原告会社の一連の交渉態度が、原告組合の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に臨んだものとは評価し難いものであることは、前記三に認定説示したとおりであって、これに、右〈1〉ないし〈4〉記載の事実を併せ考量すれば、原告会社は、会社再建案ないしその内容の一部をなす労働条件の変更につき、原告組合との間で誠実に団体交渉を行うことなく、昭和五二年度の賃上げの実施及び同年度の夏季一時金の支給については、これと一括して妥結すべき旨の要求に固執し続け、あまつさえ、同年度の年末一時金の支給に関しては、団体交渉の実施さえ拒んでいるというほかはない。そうであれば、昭和五二年三月三一日から同年一一月一九日までの間における原告会社の右交渉態度は、原告組合の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に臨んだものとは評価し難いのみならず、原告組合の団体交渉権ひいてはその団結権や存在自体を無視ないし軽視するものであって、右は、原告組合の組合員の心理的動揺を誘うなど、原告組合の組合活動一般に対する侵害的効果を必然的に伴うものであるとの評価をも免れることができない。

そうであれば、原告会社の右態度は、労働組合法七条二号及び三号所定の不当労働行為に該当するものというべきである。

2  昭和五二年一一月一九日以後の団交拒絶の不当労働行為該当性について

原告会社が、昭和五二年一一月一九日に行われた団体交渉を最後に、同五五年二月七日に団体交渉を再開するまでの間、原告組合との間の団体交渉を拒絶したことは、前記二の2において認定説示したとおりである。

そこで、以下において、原告会社の右団交拒否には正当な理由がある旨の原告会社の主張(被告の主張に対する原告会社の認否及び反論2の(二)の主張)について検討する。

(一) 正常な労使関係の破綻

まず、被告の主張に対する原告会社の認否及び反論2の(二)の(1)の主張について検討する。

昭和五二年一一月一九日に行われた団体交渉の席上、既に団体交渉が紛糾した雰囲気の中で行われていたところで、山村顧問が原告組合の運動方針を批判する趣旨の発言をしたのに対して、朴分会員が「黙っていろ。」と発言をしたこと、また、同日の団体交渉において、原告会社が、この席に出席していた原告組合の大谷本部執行委員の氏名の開示を要求したのに対し、原告組合の組合員らが、同委員は分会結成以来団体交渉に出席しており、原告会社がその氏名を知らないはずがないなどとして反論したことは、前記二の2の(二七)において認定説示したところである。そして、前掲乙第四六(後記措信しない部分を除く。)、第六四、第一〇七、第一二四(後記措信しない部分を除く。)、第一二八号証、いずれもその成立に争いのない乙第四四(後記措信しない部分を除く。)、第五〇(後記措信しない部分を除く。)、第五六(後記措信しない部分を除く。)、第八二、第二五六、第二六八、第二八〇、第二九〇、第三三三、第三三四号証によれば、〈1〉昭和五二年一一月三〇日に、原告組合がストライキを行った際、黒川取締役が、原告組合が原告会社社屋に貼付したステッカーを剥がしたことに端を発して、これに抗議をした吉田委員長と黒川取締役がもみ合う事態となったこと、〈2〉この際、黒川取締役の指示により高井課長が所轄警察署に連絡をしたことにつき、高井課長は、原告組合の組合員らの強い要求を受けて、やむなく謝罪文を作成したこと(もっとも、右謝罪文の作成につき、原告組合の組合員らが、高井課長に対して暴行や脅迫を加えるなどはしていない。)、〈3〉分会が、確証がないにもかかわらず、昭和五二年一二月七日付けの分会作成のビラ「タンポ」に、原告会社が原告組合の組合旗を窃取した旨の記事を掲載したのをはじめ、原告組合又は分会が、その作成にかかる機関誌やビラに、原告会社に関し、穏当を欠く記事を掲載したことがあること、〈4〉原告組合においてストライキを行う際の原告会社に対する通告が、ストライキ当日になって行われていること、以上の事実が認められ、この認定に反する趣旨に帰着する乙第四四、第四六、第五〇、第五六、第一二四号証の各記載部分は、前掲各証拠に照らして措信しない。

以上の事実に徴すると、原告組合の行為にも、正常な集団的労使関係秩序を維持していく上で穏当を欠く点がなくはないが、これらの事実を会社再建案の提案以来の前記二の2の認定説示に係る交渉経過、とりわけ、原告会社が、原告組合との間で誠実な団体交渉を行うことなく、会社再建案ないしその内容の一部をなす労働条件の一方的変更を強行しようとする態度に終始するなど、原告組合の団結権やその存在を軽視する態度を取り続け、原告組合との間における集団的労使関係秩序を混乱するに至らしめていたことに照らして検討すれば、原告組合の右行為をとらえて、原告会社と原告組合との間の一切の団体交渉を困難にするような行為に当たると評価することはできない。

もっとも、前掲乙第四四、第五六、第一二四号証には、右〈1〉記載のストライキの際、黒川取締役が吉田委員長の暴行により傷害を受けた旨の記載部分があるが、右記載部分は、直ちには措信することができない。また、原告会社は、昭和五三年二月九日に、伊沢分会員が、飲酒の上で原告会社の工場事務所を訪れ、居合わせた上坂課長に対して「殺してやる。」などの暴言をはいたことをも、正常な労使関係を破壊するものと主張するところ、前掲乙第一〇五号証、その成立に争いのない乙第九〇号証によれば、右主張の事実は認められるものの、右はもっぱら伊沢分会員個人の行為であって、原告組合の指示や関与があってされたものではないことが明らかであるから、右事実をもって、原告組合が正常な集団的労使関係秩序を破壊する行為に出たものとは評価し得ない。

そして、以上のほか、本件全証拠を精査してみても、原告組合において、正常な集団的労使関係秩序を破壊し、このために団体交渉の実施が困難になった旨の原告会社の主張を肯認するに足りる証拠はなく、結局、右主張は失当として排斥を免れない。

(二) 交渉の行詰り

次に、被告の主張に対する原告会社の認否及び反論2の(二)の(2)の主張について検討する。

一般に、労使双方が誠意をもって団体交渉を重ねたにもかかわらず、双方の主張が対立し、それ以上に譲歩の余地がないことが明確となった段階においては、それ以上の団体交渉の続行は無意味なものとしてこれを拒否したとしても、これについては正当な理由があるものと解することができる。しかし、原告会社は、昭和五二年一一月一九日までの間に、昭和五二年度の賃上げの実施、同年度の夏季及び年未一時金の支給に関し、原告組合の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉を行ったものと認め難いことは、既に認定説示したとおりである。そうであれば、右一一月一九日の段階における原告会社と原告組合の主張の対立状態は、労使双方が誠意をもって団体交渉を重ねた上で生じた対立状態とはいえず、これをもって、原告組合との間の団体交渉の拒否を正当化する理由とはなし得ないことは明らかである。したがって、原告会社の右主張も失当というほかはない。

結局、原告会社が、昭和五二年一一月一九日の団体交渉を最後に、同五五年二月七日に団体交渉を再開するまでの間、原告組合との間の団体交渉を拒絶したことにつき、正当な理由がある旨の原告会社の主張は、理由がないものというべきである。

そうであれば、原告会社が、昭和五二年一一月一九日の団体交渉を最後に、同五五年二月七日に団体交渉を再開するまでの間、原告組合との間の団体交渉を拒絶したことは、労働組合法七条二号所定の不当労働行為に該当することは疑いがないのみならず、原告組合の団体交渉権、ひいては、原告組合の団結権やその存在自体を軽視するものであって、右は、原告組合の組合員の心理的動揺を誘うなど、原告組合の組合活動一般に対する侵害的効果を必然的に伴うものであるとの評価をも免れることができないから、同条三号所定の不当労働行為にも該当するものというべきである。そして、原告会社の右不当労働行為は、前記1に認定説示した、昭和五二年三月三一日から同年一一月一九日までの間における原告会社の不当労働行為と一連の不当労働行為を構成するものというべきである。

3  以上のとおりであるから、原告会社は、昭和五二年度の賃上げの実施、同年度の夏季及び年末一時金の支給並びに昭和五三年度の賃上げの実施に関し、誠意をもって団体交渉を行うこともないまま、長期間にわたり正当な理由もなく、原告組合との間の団体交渉を拒否したものというべきであって、これが、労働組合法七条二号及び三号所定の不当労働行為に該当する旨の被告の認定・判断には、何ら違法はない。

五  昭和五二年度夏季及び年末一時金の不支給の不当労働行為該当性

原告会社が、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の支給に関し、原告組合の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉を行うこともないまま、同年一一月一九日の団体交渉を最後に、長期間にわたり正当な理由もなく、原告組合との間の団体交渉を拒絶したというべきことは、右四において認定説示したとおりであるところ、昭和五五年二月七日以降再開された団体交渉においても、右の点については、原告会社が週休一日・週四〇時間労働制の導入との一括妥結以外にはあり得ないとの態度を示したため、交渉が棚上げされたままであること、したがって、本件命令の発令時に至るも、原告会社と原告組合との間では、分会員に対する昭和五二年度の夏季及び年末一時金の支給については協定が成立せず、このため、その支給がされていないことは、前記二の2の(三三)において認定説示したとおりである。

そうであれば、原告会社は、右の点に関する誠実団交義務を懈怠し、その支給に関する協定の成立を不可能ならしめ、その結果、分会員に対して、長期間にわたる一時金の不支給という経済的不利益を与えているものというほかはない。のみならず、原告組合において週休一日・週四〇時間労働制の導入等の労働条件の変更を承認しないことに起因して、原告会社が、分会員らに右のごとき経済的不利益を与えることは、原告組合員の心理的動揺を誘うなど、原告組合の組合活動一般に対する侵害的効果を必然的に伴うものであるとの評価をも免れることができない。したがって、これが、労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為に該当する旨の被告の認定・判断にも、何ら違法はない。

六  本件命令についてのその他の違法事由

そこですすんで、本件命令についてのその他の違法事由として原告会社が主張するところ(請求原因4)について検討をする。

1  主文第一項第一号に係る救済の必要性の消滅

(一) 原告会社は、昭和五五年二月七日以降、原告組合との間の団体交渉を再開したこと、しかし、右再開後の団体交渉においても、原告会社は、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の支給に関しては、週休一日・週四〇時間労働制の導入との一括妥結を主張したため、この点を棚上げにしたまま交渉が行われたことは、前記二の2の(三三)に認定説示したとおりであって、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の支給に関しては、本件命令の発令時まで、原告会社と原告組合との間の実質的な団体交渉が行われない状況が続いていたことを肯認するのに十分である。

したがって、本件命令主文第一項第一号のうち、原告会社に対し、右の点について原告組合と誠実に団体交渉すべきことを命じた部分については、本件命令の発令時においてもなお、救済の必要性が認められたものということができ、本件全証拠を精査してみても、右部分について救済の必要性が消滅した旨の原告会社の主張を肯認するに足りる証拠はなく、右主張は理由がない。

(二) これに対し、昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの実施については、原告会社は、右再開後の団体交渉において、昭和五五年度分までの分の賃上げの実施と併せて交渉を行ったこと、右交渉において、原告会社は、分会員と別組合の組合員及び非組合員である従業員との単位時間当たりの賃金は同一であるべきであるとの考え方に立って算定した賃上げ額を主張したのに対し、原告組合は、大阪地労委の救済命令(別紙一)主文第二項本文のとおりの賃上げの実施を要求したため、本件命令の発令時まで交渉が妥結するに至っていないことは、前記二の2の(三三)において認定説示したとおりである。

しかして、右再開後の団体交渉における昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの実施に関する原告会社の交渉態度は、新たに、単位労働時間当たりの賃金の同一という基準を主張するに至ったものの、昭和五二年一一月一九日以前の団体交渉において支給の条件としていた週休一日・週四〇時間労働制の導入問題とは切り離して、右各年度の賃上げ額について原告組合と交渉を行う態度を明らかにしたとみることができるものであり、また、原告会社が昭和五二年度及び同五三年度の賃上げ額を零と主張したことも、昭和五二年九月一日以降、別組合の組合員及び非組合員である従業員が週休一日・週四〇時間労働制の下で就労しているのに対して、分会員は、週休二日・週三五時間労働制の下で就労してきたにすぎないという両者の労働時間の差異を考慮すれば、十分に首肯し得るものであって、分会員を特に不利益に取り扱う不合理なものであるとか、又は、将来において、分会員に対し週休一日・週四〇時間労働制を強要するものであるということもできない。そして、前掲甲第一、第二号証、乙第四〇七号証、その成立に争いのない乙第四〇一、第四〇二号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証並びに証人堀渕建の証言によれば、右再開後の団体交渉を通じて、昭和五三年度以降の一時金の支給や昭和五四年度分以降の賃上げの実施については、現に、仮支給協定が成立していることが認められるのであって、これらの事実をも勘案すれば、右再開後の団体交渉における昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの実施に関する原告会社の交渉態度をもって、誠実団交義務を懈怠したとまでは断定し難いものというべきである。

そうであれば、昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの実施に関しては、妥結には至っていないものの、本件命令の発令時において、原告会社は、従前の団交拒否の態度を改め、原告組合との間の団体交渉を再開していたものといえ、この点については、原告会社に対し誠意をもって団体交渉を行うべきことを命ずる必要性は消滅していたということができる。

(三) 以上のとおりであるから、本件命令主文第一項第一号のうち、原告会社に対し、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の支給に関し、原告組合と誠意をもって団体交渉を行うことを命じた部分には原告会社主張の違法事由は肯認することはできないが、昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの実施に関しては、本件命令の発令時には、既に団体交渉を行うことを命ずべき必要性は消滅していたものというべきであって、主文第一項第一号のうち、原告会社に対し、昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの実施に関して、原告組合と速やかに誠意をもって団体交渉を行うことを命じた部分は、救済の必要性についての判断を誤るものとして、取消しを免れることができない。

2  主文第一項第二号に係る救済の必要性の消滅

原告会社が、本件命令主文第一項第二号に係る救済の必要性の消滅事由として主張(請求原因4の(二))するところは、本件命令発令後の事情の変更の主張にすぎない。救済命令の取消訴訟も、行政処分に対する司法的な事後審査である点では、一般の行政処分の取消訴訟と異なるところはないから、救済命令発令時を基準として、その適否を判断すべきものというべきである。そうであれば、本件救済命令発令後の事情変更を理由として、本件命令主文第一項第二号に係る救済の必要性が消滅したとする原告会社の右主張は、それ自体失当として排斥を免れない。

3  川尻元分会員に対し、主文第一項第二号の金員の仮支給を命じた部分にかかる救済の必要性の欠缺

川尻元分会員が、昭和五四年四月一三日、原告組合の組合員資格を喪失したことは、当事者間に争いがない。

しかして、分会員に対する昭和五二年度の夏季及び年末一時金の不支給は、分会員各個人に対する不利益取扱に当たるのみならず、原告組合の組合員の心理的動揺を誘うなど、原告組合の組合活動一般に対する侵害的効果を必然的に伴うものであるとの評価をも免れることができず、労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為に該当することは、前記五において認定説示したとおりである。そうであれば、原告組合は、右一時金の不支給の組合活動一般に対する侵害的効果を除去し、正常な集団的労使関係秩序を回復・確保するために、本件命令主文第一項第二号の救済を受けるべき固有の利益を有するものといえる。そして、右不利益取扱を受けた川尻元分会員が、原告組合の組合員資格を喪失したからといって、原告組合の組合活動一般に対する侵害的効果が消失するものでない以上、同元分会員が原告組合の組合員資格を喪失したとしても、原告組合の右利益は、失われるものではないというべきである。

もっとも、本件命令主文第一項第二号のように、その救済内容が不利益取扱を受けた組合員個人の雇用契約上の権利利益の回復という形を取る場合には、不利益取扱を受けた組合員が、組合員資格の喪失に伴い、積極的にその権利利益を放棄する旨の意思表示をし、又は、組合の救済申立てを通じて右権利利益に関する救済を図る意思のないことを表明したときは、組合は、同人に関して、その権利利益の救済を求めることはできないと解される。しかしながら、本件全証拠を精査してみても、川尻元分会員が、原告組合の組合員資格の喪失に伴い、昭和五二年度の夏季及び年末一時金に関する権利利益の放棄の意思表示や原告組合の救済申立てを通じて右の点に関する救済を図る意思のないことを表明したことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、前掲乙第九〇、第一〇五、第一四四号証及びその成立に争いのない乙第二九八号証によれば、川尻元分会員は、組合員資格の喪失にもかかわらず、原告組合の救済申立てを通じて、自己の権利利益の救済を図る意思を表明していることが明らかである。

そうであれば、被告が、原告組合の救済申立てにより、川尻元分会員に対する関係でも、主文第一項第二号の救済命令を発したことには、原告会社が主張する違法はないというほかはない。

七  以上のとおりであるから、本件命令は、主文第一項第一号のうち、原告会社に対して、昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの実施に関し、原告組合との間で速やかに誠意をもって団体交渉を行うことを命じた部分については、その救済の必要性についての判断を誤る違法があることになるが、その余の部分については、何ら違法の点はないということができる。

〔乙事件〕

一  請求原因1の事実(被告に対する再審査申立てに至る経緯及び本件命令の存在)及び同2の事実(本件紛争の経緯)は、いずれも当事者間に争いがない。

二  会社再建案の強行実施の撤回を求める再審査申立てを棄却した点の違法性(請求原因3の(一))について

1  原告組合の右主張は、被告に対する再審査申立てにおいて、会社再建案の強行実施の撤回を求める救済を申し立てたが、棄却されたことを前提とするものであることは、その主張自体によって明らかである。

しかし、いずれもその成立に争いのない乙一、第六、第一一〇、第一一二ないし第一一四号証によれば、労働委員会における審理の経過として、次の事実を認めることができる。すなわち、原告組合は、大阪地労委に対する救済申立てにおいて、会社再建案の強行実施は不当労働行為に当たるとして、その撤回を命ずることを求めたが、同地労委は、別紙一のとおり、原告会社が原告組合と誠意ある団体交渉を行わずに会社再建案を一方的に実施したことについて、それが不当労働行為であることを認めて今後このような行為を繰り返さないことを誓約する旨の文書の手交を命じたのみで、その余の申立てを棄却した。この初審命令に対して、原告組合は、被告に再審査を申し立てたが、その申立書(乙第一一〇号証)に記載された不服の要点は、会社再建案の実施とはまったく関係のない事項のみであって、大阪地労委が、会社再建案の強行実施の撤回を命じなかったこと、或いは、会社再建案の強行実施に関する救済の内容を誓約文書の手交の限度に止めたことについては、何らの不服申立てもしていない。そして、被告も、この点については、別紙二のとおり、初審命令と同様の誓約文書の手交を命じただけで、これよりも原告組合に不利益な判断はしていないのである。

そうであれば、原告組合の右主張は、再審査申立ての対象とせず(もっとも、本件命令書の三九頁には、原告組合は会社再建案の撤回を命じなかったことを不服として再審査を申し立てた旨の記載があるが、右の再審査申立書や前掲乙第一一二号証の準備書面及び乙第一一三号証の最終陳述書並びにいずれもその成立に争いのない乙第一二三、第一二五、第一二七、第一二九、第一三一、第一三三、第一三五、第一三七、第一三九、第一四一、第一四三号証の各審問調書には、原告組合がそのような申立てをしたことを示す記載はない。)、かつ、初審命令よりも特に不利益な判断もされていない事項についての取消しを求めることに帰着し、取消しの利益を欠き、それ自体、不適法というほかはない。

2  のみならず、本件命令によれば、被告は、原告会社が原告組合と誠意ある団体交渉を行わずに会社再建案を一方的に実施したことが、労働組合法七条二号及び三号所定の不当労働行為に該当することを認めた上で、これに対する救済の内容として、前記のとおりの誓約文書の手交を命じたもので、会社再建案そのものの撤回を命ずるまでの必要はないと判断したものと解される。そして、不当労働行為が成立する場合の救済の内容については、現行法上、労働委員会に広範な裁量権が認められているのであって、労働委員会は、その裁量に従い個々の事案に即した最も適切かつ妥当と思料する措置を決定することができるのであるから、たとえ、具体的に決定された救済の内容が申し立てられた救済の内容を下回る場合でも、そこに救済申立ての一部棄却があったものと解すべきではない。したがって、本件においても、原告組合としては、会社再建案の撤回を求める救済の申立てを棄却されたものとして、その取消しを求めるべきではなく、むしろ、被告が救済の内容として誓約文書の手交を命じるに止めたことに裁量権の濫用があるとして、右命令の取消しを求めるべきことになる。

しかるに、原告組合は、誓約文書の手交を命じた救済命令の取消しを求めないばかりか、被告に裁量権の濫用があることについても、何らの主張、立証をしていない。かえって、右一で説示した会社再建案の提案とその内容及びこれを巡る交渉経過(請求原因2で引用した甲事件における被告の主張1の(二)の(1)ないし(32)の事実)によれば、原告会社が提案した会社再建案は、何ら法的効力を生じないものであり、しかも、その一部の実施によって生じた事実上の不利益も既に回復済みで、特に会社再建案の撤回を命ずる必要はないことが明らかであるから、被告が会社再建案そのものの撤回を命じなかったことは首肯するに足り、それが被告に認められた裁量権の行使を誤った違法なものとは、到底、認めることができない。すなわち、原告会社が昭和五二年三月三一日に提案した会社再建案の内容は、右提案の当時に原告会社と原告組合との間で締結されていた労働協約に基づく別紙三の労働条件対比表の旧労働条件欄記載の労働条件(ただし、同表番号15を除く。)を、同表会社再建案欄記載のとおり、労働者に不利益に変更するものであったが、原告会社は、〈1〉原告組合との間の右労働協約については、労働組合法一五条三項所定の解約予告はもとより、何らの解約手続も採っておらず、そのため、会社再建案の提案は、分会員の労働条件を変更する効力を生じ得ないものであること、〈2〉同年五月一一日に、「制度及び計算基準変更について」と題する書面を分会員を含む全従業員に配布し、同日から、会社再建案に従って労働条件を変更する旨を通知した上、分会員らに対する同年五月分の賃金の支払に当たって、週休二日制の廃止、生理休暇及び病気欠勤の無給化を前提とする賃金カットを行ったが、右賃金カット分については、天満労働基準監督署の労働基準監督官の勧告により、同年六月三〇日に支払が行われ、既に不利益が回復済みであること、〈3〉同年六月一八日に、同月三〇日からの会社再建案の実施を通告し、更に、同年八月一一日の団体交渉において、会社再建案の内容の一部をなす週休一日・週四〇時間労働制を同年九月一日から実施する旨の通告をし、更に、同年八月一六日、先に別組合との間で締結した週休一日・週四〇時間労働制の導入等を内容とする協定の内容を原告組合にも実施する旨を文書によって通告したが、原告組合との間の労働協約、したがって右協約によって規律されている分会員の労働条件に消長をきたすものではなく、現に、いずれもその成立に争いのない乙第三〇八号証、丙第一、第四号証によれば、分会員らは、別紙三の労働条件対比表番号3ないし7の点については、週休二日・週三五時間労働をはじめとする、原告組合と原告会社との間で締結された労働協約によって定められた同表旧労働条件欄記載の労働条件に従ってのみ就労すべき義務があり、会社再建案の内容である同表会社再建案欄記載の労働条件に従って就労すべき義務はない旨の確定判決を得ていることが、それぞれ明らかであって、このような事実関係のもとでは、被告が命じた誓約文書の手交のほかに、会社再建案そのものの撤回を命ずる必要は認められないからである。

3  なお、原告会社は、昭和五二年六月頃から、会社再建案の内容の一部であるパートタイマーを採用し、新入社員に対する新賃金体系の適用を開始したことは、前記一において説示したとおりであり、被告は、これらをも誠意ある団体交渉を行わずに実施したものと認定しているが、原告会社がパートタイマーを採用したり、原告組合の組合員でない新入社員に対して新賃金体系を適用したとしても、それは原告組合の組合員の労働条件とは直接に関係のない事柄であって、原告組合との間で締結された労働協約に抵触するとか、又は、原告組合の団結権を侵害すると解するのは困難である。

また、いずれもその成立に争いのない乙第八六、第八八、第一〇一、第一〇七、第一二六、第一二八、第一三〇、第一三二、第一三四、第一四〇、第二七〇、第二九一号証によれば、原告会社は、会社経営の合理化を図るために、営業部門において営業・配達コースの見直しを行い、営業・配達コースを整理・削減することとし、これに伴い、営業担当であった川尻元分会員に対して、昭和五三年二月二〇日、その配達コース(係)、出勤時間、休日の変更を通知し、同月二四日からこれに従わせており、更に、その頃から、就業時間内において原告会社職制に対する長時間にわたる抗議活動等の組合活動を行った分会員に対して、右組合活動に伴う不就労時間に相当する賃金カットを行い、始業後三〇分以上の遅刻については厳密に賃金カットを行うに至ったことがそれぞれ認められる。そして、被告は、原告会社が右配達コースの変更について原告組合の団体交渉の申入れを拒否したことをも問題としているが、本件全証拠を精査してみても、原告会社の右行為が、原告組合との間の労働協約に抵触するものであることや、原告組合の組合活動を嫌悪してされた分会員らに対する不利益取扱であることを肯認するに足りる証拠はない。

したがって、原告会社の右各行為については、そもそも、撤回の要否は問題とならないというべきである。

4  ほかに、被告の決定した前記救済の内容がその裁量権を濫用した違法なものであることを肯認するに足りる証拠はなく、したがって、会社再建案の撤回を求める再審査申立てを棄却した点の違法をいう原告組合の主張は、いずれにせよ、採用することができない。

三  分会員に対して昭和五二年度及び同五三年度の賃上げを仮に実施すること及び伊沢分会員に対して昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの仮実施を前提としてその退職金の精算をすることを命じた大阪地労委の初審命令を変更して、原告組合の救済申立てを棄却した点の違法性(請求原因3の(二))について

1  原告会社が、昭和五二年度及び同五三年度において、別組合の組合員及び非組合員である従業員に対して賃上げを実施しながら、分会員に対してはこれを実施していないことは、当事者間に争いがない。

そこで、原告会社の右措置の当否についてみるに、仮に、別組合の組合員及び非組合員である従業員と分会員とが、いずれも同量、同質の労働を提供しているにもかかわらず、前者に対してのみ賃上げを実施し、後者に対してはこれを実施せず、そのため両者の賃金に格差を生じたというのであれば、これが、労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為に該当する可能性がないとはいえない。しかし、本件の全証拠を精査しても、別組合の組合員及び非組合員である従業員と分会員とが同量、同質の労働を提供していることを認めるべき証拠はなく、かえって、別組合の組合員及び非組合員である従業員は、昭和五二年九月一日から、週休一日・週四〇時間の労働条件の下で就労しているのに対し、分会員は、依然として、週休二日・週三五時間の労働条件の下で就労しており、その労働条件(労働時間)に明確な差異があることは、前記一に説示したとおりである。そうであれば、別組合の組合員及び非組合員である従業員に対してのみ賃上げを実施した結果、分会員との間に賃金額の差が生じたとしても、その賃金の差が労働時間の差に相応する範囲のものに留まる限り、これをもって直ちに、分会員に対する不利益取扱であると評価することはできない。そして、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる乙第三二五号証、証人堀渕建の証言及び原告組合代表者尋問の結果を総合すれば、昭和五二年度及び同五三年度における別組合の組合員及び非組合員である従業員に対する賃上げ額は、昭和五一年度の基本賃金を前提として算定される単位時間当たりの賃金を基準とすると、その労働時間の延長に見合うまでの額に達していなかったため、同人らに対する賃上げ後の賃金と分会員が現に支払を受けた賃金(昭和五一年度と同額の賃金)とを比較すると、その単位時間当たりの賃金は、分会員らの方がなお高額であったことが認められる。

右の事実によれば、原告会社が、週休一日・週四〇時間の労働条件の下で就労している別組合の組合員及び非組合員である従業員に対してのみ昭和五二年度及び同五三年度の賃上げを実施し、週休二日、週三五時間の労働条件の下で就労しているにすぎない分会員に対してはこれを実施しなかったとしても、それは、労働時間の差に相応する範囲のものということができるから、これをもって直ちに、分会員を不利益に取り扱うものであると解することは困難である。

2  もっとも、原告組合は、別組合の組合員及び非組合員である従業員と分会員との間の労働条件の差異は、別組合の組合員及び非組合員である従業員が自ら有利な労働条件を放棄した結果生じたものであるから、このような事情を分会員に対する賃上げの未実施の不当労働行為該当性の判断に当たって考慮するのは誤りである旨主張するので、この点について検討する。

別組合の組合員及び非組合員である従業員において週休一日・週四〇時間の労働条件で就労することを承諾したことが、たとえ有利な労働条件を放棄したことになるとしても、それが、諸般の事情を考慮したその自由な意思決定に基づいて、賃上げ等の実施のために相当であると判断したものである限り、原告組合とは何ら関わりのない事柄として是認されるべきであって、週休二日・週三五時間労働制の下で就労しているにすぎない分会員が、このような労働時間の差異を度外視して、賃上げの結果の享受のみを要求するのは、かえって不合理であり、筋が通らない。のみならず、原告会社が、別組合の組合員及び非組合員である従業員の賃金は、賃上げ分を加味しても、単位労働時間当たりでみると減額になったものとして、これを基準として、分会員の賃金の引き下げを行ったというのであれば、原告組合の主張するように、分会員は、週休一日・週四〇時間労働を前提として賃金カットを受けている結果となることは否定できない。しかし、前述したところによれば、原告会社は、週休一日・週四〇時間労働への労働条件の変更を承諾した別組合の組合員及び非組合員である従業員に対して労働時間の延長に見合う賃上げを実現できるまでの間、分会員に対しては賃金を据え置いたにすぎないとみるべきであって、賃金の引き下げを行ったものではないから、原告組合の右主張が失当であることは明らかである。

3  以上のほか、本件全証拠を精査しても、原告会社が、分会員に対して、昭和五二年度及び同五三年度の賃上げを実施しなかったことが、分会員に対する不利益取扱に当たることを肯認するに足りる証拠はなく、被告が、分会員に対して右両年度の賃上げを仮に実施すること及び伊沢分会員に対してその仮実施を前提として退職金の精算をすることを命じた大阪地労委の初審命令を変更して、原告組合の救済申立てを棄却した点の違法をいう請求原因3の(二)の主張は、採用することができない。

四  昭和五二年度の夏季及び年末一時金の仮支給額の算定に当たり、昭和五五年一二月一九日に、原告組合と原告会社が妥結した昭和五三年度夏季及び年末一時金の仮支給の例に準ずる方法を採用して、原告会社と別組合との妥結額と同額の仮支給を求める救済申立てを一部棄却した点の違法性(請求原因3の(三)の(1)及び(2))について

1  原告組合は、本件命令のうちの救済申立てを棄却した部分(主文第一項第四号)に、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の不支給に係る救済申立てを一部棄却した部分が含まれることを前提として、右救済申立てを棄却した部分の違法事由として、請求原因3の(三)の(1)及び(2)の主張をする。

しかし、請求原因1の事実(被告に対する再審査申立てに至る経緯及び本件命令の存在)が当事者間に争いのないことは、前記一に説示したとおりであるところ、右争いのない事実によれば、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の不支給が不当労働行為に該当するとする原告組合の救済申立てについては、被告は、その不当労働行為該当性を認めた上で、主文第一項第二号記載のとおりの救済命令を発していることが明らかであって、右救済内容に原告組合の申し立てた救済内容を下回る部分があるとしても、被告が右部分につき原告の救済申立てを棄却したと解すべきではない。なぜなら、前記二1でも述べたように、現行法上、不当労働行為が成立する場合の救済の内容については、労働委員会に広範な裁量権が認められており、労働委員会は、その裁量に従い、個々の事案に即した最も適切かつ妥当と思料する措置を決定することができるのであって、民事訴訟のように、当事者の請求する救済内容の当否の審査という形で救済内容を決定するものではないからである。申立書の記載事項として、請求する救済の内容を表示することが要求されている趣旨も、労働委員会が申立人の救済申立ての趣旨を誤って理解しないためのものに留まり、その記載に民事訴訟における請求の趣旨と同様の意義を認めることはできないのである。したがって、被告が、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の不支給が不当労働行為に当たることを認めた上で、その救済措置として、本件命令主文第一項第二号の救済命令を発したことは、それが本件の事案に即した最も適切かつ妥当な措置と思料したためであると解されるから、そこに、原告組合が申し立てた救済内容を下回る部分があったとしても、右下回る部分について、原告組合の救済申立てを棄却したものと解することはできない。

そうであれば、本件命令のうちの救済申立てを棄却した部分(主文第一項第四号)に、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の不支給に係る救済申立てを一部棄却した部分が含まれることを前提とする請求原因3の(三)の(1)及び(2)の主張は、その前提を誤るものというほかはない。

2  なお、請求原因3の(三)の(1)及び(2)の主張が、被告のした主文第一項第二号の救済内容は、原告組合の申し立てた救済内容を下回る点で被告に認められた裁量権を逸脱・濫用したものとする趣旨を含むものとしても、以下に認定・説示するとおり、いずれも肯認するに足りない。

(一) 請求原因3の(三)の(1)の主張について

昭和五二年度の夏季一時金の支給を巡り、原告会社と原告組合との間で、甲事件における被告の主張1の(二)の(19)及び(20)記載のとおりの交渉が行われたことは、当事者間に争いがない。そこで、原告組合が、原告会社から提示された回答書の内容の一部である昭和五二年度の夏季一時金の支給条件についてのみ受諾通告をしたことをもって、右の点についての交渉が妥結したと解することができるか否かについて検討するのに、右当事者間に争いのない事実によれば、原告会社は、昭和五二年八月一〇日の回答において、週休一日・週四〇時間労働制の導入及び営業、製造の合理化を条件として、右回答に示した方法により昭和五二年度の夏季一時金を支給する旨を回答していることが明らかであるから、原告組合が、右条件部分を拒否したまま、夏季一時金の支給方法についてのみ承諾したからといって、夏季一時金の支給について交渉が妥結したと解し得ないことはきわめて明らかである。そして仮に、被告の主張に対する原告組合の反論2記載のように、原告会社が、昭和五二年度夏季一時金の支給の条件として提示したところが原告組合において到底承服できないような過酷なものであったとしても、そのような過酷な差し違え条件を提示することによって同年度の夏季一時金についての協定の成立を不可能にしたことの不当労働行為該当性が問題とはなり得ても、原告組合主張のように右条件部分を除いた協定の成立を擬制する根拠は見当たらない。

そして、本件全証拠を精査してみても、昭和五二年度夏季一時金の支給につき、原告組合と原告会社との間で、別組合との妥結額と同額を支給する旨の協定が成立したことを肯認するに足りる証拠はない。

(二) 請求原因3の(三)の(2)の主張について

いずれもその成立に争いのない乙第三二八、第三五〇号証によれば、昭和五二年度の夏季一時金の支給対象期間は昭和五一年一一月二六日から同五二年五月二五日までであり、同年度の年末一時金の支給対象期間は同年五月二六日から同年一一月二五日までであることが認められ、前記一に説示したとおり争いのない本件紛争の経緯に照らせば、その各支給対象期間のうち、昭和五二年八月三一日までは、分会員と別組合の組合員及び非組合員である従業員の労働条件は同一であったことが明らかである。しかしながら、別組合は、昭和五二年度の夏季一時金の支給の条件として、昭和五二年九月一日から週休一日・週四〇時間に労働条件を変更することや原告会社の営業、製造の合理化に協力することを承諾したことは前記一説示のとおり当事者間に争いがないこと、一般に、一時金の支給は、その支給対象期間の労働に対する後払賃金たる性質のみを有するものではなく、将来の労働に対する意欲向上策としての意義をも有すると解されることなどを考量すれば、被告が、本件命令の主文第一項第二号において命じた救済内容が、たとえ、分会員と別組合の組合員及び非組合員である従業員の労働条件が同一であった昭和五二年八月三一日までの期間について斟酌していないからといって、昭和五二年度の夏季及び年末一時金の不支給という不当労働行為の救済として不合理かつ不当なものであって、被告に認められた裁量権を逸脱・濫用するものとは、解し難いところである。以上のほか、本件全証拠を精査しても、右救済措置が被告に認められた裁量権を逸脱・濫用した違法なものであることを肯認するに足りる証拠はない。

五  大阪地労委の審問等に出席した分会員の賃金カット分について、その支給を命じた初審命令を変更して、原告組合の救済申立てを棄却した点の違法性(請求原因3の(四))について

原告会社が、昭和五二年七月一五日に行われた大阪地労委昭和五二年(不)第四〇号事件の第三回審問期日以降、労働委員会の審問等に出席した分会員の賃金につき、うち一名を除いて、審問等出席に伴う不就労時間に相当する賃金カットを行っていることは、当事者間に争いがない。そこで、原告会社と原告組合との間には、昭和五二年六月以前において、労働委員会の審問等に出席する組合員については右審問出席に伴う不就労時間の賃金カットを行わない旨の合意ないし労使慣行が成立していた旨の原告組合の主張について検討する。

前掲乙第一〇一(後記措信しない部分を除く。)、第一〇七、第一二八、第一四〇号証(後記措信しない部分を除く。)、その成立に争いのない乙第一二四、第一四四号証(後記措信しない部分を除く。)、弁論の全趣旨によって真正に成立したことが認められる乙第三八九号証及び原告代表者尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によれば、昭和五一年八月二七日に行われた大阪地労委昭和五一年(不)第一〇三号事件の調査期日において、分会員の同事件の審問期日への出席に伴う不就労時間の賃金保障問題が検討され、大阪地労委の公益委員の仲介もあって、同事件については、原告会社は原告組合との間で、その審問期日に出席する分会員三名分について、審問出席に伴う不就労時間の賃金カットを行わないことが合意されたことが認められる。しかし、右合意は、右事件の審問期日に出席する分会員の賃金のみならず、労働委員会の審問期日等に出席する分会員の賃金一般につき、三名分を保障することを趣旨としたものである旨の前掲乙第一〇一、第一四〇、第一四四の各記載部分及び原告代表者の供述部分は、前掲乙第一〇七、第一二四、第一二八、第三八九号証の記載に照らして直ちに措信しがたく、本件全証拠を精査しても、右認定に係る合意の他に、原告会社と原告組合との間で、労働委員会の審問期日等に出席する分会員の賃金保障一般について、原告組合主張のごとき合意が成立したことを肯認するに足りる証拠はない。

次いで、労働委員会の審問期日等に出席する分会員の賃金保障一般についての労使慣行の成立をいう原告組合の主張について検討するのに、法的効力のある労使慣行の成立を肯定するためには、一定の事実上の取扱いが長期間にわたり反復継続して行われたことのほか、右反復継続した事実上の取扱いが労使双律の規範意識によって支持されていることを要するものと解されるところ、本件全証拠を精査してみても、労働委員会の審問等に出席する分会員三名分の賃金保障が、長期間にわたり反復継続して行われていたことを肯認するに足りる証拠はなく、また、そのような取扱いが、原告会社に規範意識をもって支持されていたことを肯認するに足りる証拠もない。

そうであれば、原告会社において、労働委員会の審問期日等に出席した分会員に対し、右審問出席等に伴う不就労にもかかわらずその分の賃金を保障するという便宜供与をなすべき法的義務を負うと解する根拠はなく、原告会社が、昭和五二年七月一五日に行われた大阪地労委昭和五二年(不)第四〇号事件の第三回審問期日以降、労働委員会の審問等に出席した分会員の賃金につき、うち一名を除いて、審問等出席に伴う不就労時間に相当する賃金カットを行い、それ以上の便宜を与えなかったとしても、それが、分会員に対する不利益取扱や原告組合の弱体化を企図した不当労働行為に該当するものということはできない。以上のほか、本件全証拠を精査しても、原告組合の右主張を肯認するに足りる証拠はない。

六  原告組合の組合員である田野尻分会員の生理休暇中の不就労を理由として賃金カットを行った点についての救済申立てを棄却した初審命令に対する再審査申立てを棄却した点の違法性(請求原因3の(五))について

請求原因3の(五)の(1)及び(2)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。そこで、原告会社がした田野尻分会員に対する右賃金カットの不当労働行為該当性について検討するのに、前掲乙第一〇七号証、いずれもその成立に争いのない乙第七六、第七八号証によれば、田野尻分会員は、生理休暇期間中であるにもかかわらず参加した昭和五二年七月二六日の団体交渉において、積極的な発言を行い、また、同五三年六月二八日のストライキの際にも、他の組合員らとともに活発な抗議行動を行っていたこと、そこで、原告会社は、右のような田野尻分会員の行動に照らすと、昭和五二年七月二六日並びに昭和五三年六月二八日及び翌二九日については、その生理休暇の取得は生理休暇制度の趣旨を逸脱したものであるとして、請求原因3の(五)の(1)及び(2)記載のとおりの賃金カットを行ったことが認められる。そして、労働基準法が生理日の就業が著しく困難な女子について生理休暇の請求を認めた趣旨に照らせば、原告会社の右判断は必ずしも理由のないものとはいえず、そうであれば、原告会社による右賃金カットが、田野尻分会員が原告組合の組合員であることや、原告組合の弱体化を図る意図でされたものとは断定し難いものというべきであって、右賃金カットの不当労働行為該当性を肯認することはできない。しかも、前掲乙第七六、第一〇七号証及びその成立に争いのない乙第五四、第六〇、第一〇九号証によれば、原告会社は、田野尻分会員に対し、昭和五二年七月二六日の賃金カット相当額については、昭和五三年一月三一日に支払ずみであること、また、同五三年六月二九日の賃金カット相当額については、後日、田野尻分会員にその提供をしたものの、その受領を拒否されたため、これを供託したことがそれぞれ認められ、右両日分の賃金カットについては、仮にこれが不当労働行為に該当するとしても、本件命令の発令時までに救済の必要性が消滅していたことが明らかである。

以上のとおりであるから、原告組合の請求原因3の(五)の主張も、これを肯認するには足りない

七  原告会社のその他の不当労働行為についての認定・判断の誤り(請求原因3の(六))について

1  原告会社の太田所長による田野尻分会員の説得行為の不当労働行為該当性について

請求原因3の(六)の(1)の事実のうち、昭和五二年六月一三日、太田所長が、大阪営業所のタイプ室において、田野尻分会員に対して、原告会社の機構改革に伴い変更された担当事務に就くように説得したことは、当事者間に争いがない。

そして、前掲乙第五四、第六〇、第七六(後記措信しない部分を除く。)、第八六、第一〇七号証、いずれもその成立に争いのない乙第三〇、第五二、第五六、第七二(後記措信しない部分を除く。)、第七四、第八四号証(後記措信しない部分を除く。)によれば、〈1〉原告会社は、昭和五一年秋頃からその機構改革を検討し、本社の営業部の販売経理事務については、各営業所の管轄とする方向で機構改革を行うことを計画したこと、〈2〉右機構改革については、昭和五二年三月九日の団体交渉で原告組合に提案され、職場交渉を行った上で実施することが合成されたこと、〈3〉原告会社は、同年四月三〇日に、高井課長が本社営業部の販売経理事務に関係する従業員を集めて、機構改革についての説明を行った上、特段の異論もなかったため、同年五月六日から右営業部の事務の機構改革を実施したこと、〈4〉その結果、本社営業部の販売経理事務を担当していた田野尻分会員は、大阪営業所の販売経理事務を担当することになったが、その勤務場所には変更はなく、担当事務については、従来行っていた日計簿の記載に代わって大阪営業所の小口出納事務を担当することになるなど具体的事務内容には変更があったものの、いずれも経理事務の範囲内のものであったこと、〈5〉しかし、田野尻分会員は、右本社営業部の機構改革は原告組合の承認を得ていないものであるとして、機構改革に伴い担当を命じられた事務に就かなかったこと、〈6〉このため、大阪営業所の日常業務にも支障が生じたため、田野尻分会員の上司に当たる太田所長は、請求原因3の(六)の(1)記載のとおり、田野尻分会員を大阪営業所のタイプ室に呼び入れ、その担当事務を行うように説得したこと、〈7〉しかし、田野尻分会員が右説得に応じなかったため、激昂した太田所長は、田野尻分会員に対して、「仕事がいやなら辞めてしまえ。」と怒声を上げたこと、以上〈1〉ないし〈7〉の事実が認められ、この認定に反する趣旨に帰着する前掲乙第七二、第七六、第八四号証の記載部分は、前掲各証拠に照らして直ちに措信することができない。

以上の認定事実に加え、本件全証拠によっても、田野尻分会員による担当事務の拒否行為が原告組合の指示に基づくなど原告組合の活動方針に従いその一環として行われていたことをうかがわせる証拠もないことをも考量して、太田所長による田野尻分会員に対する説得行為の不当労働行為該当性について検討すると、同所長が田野尻分会員に対してその担当事務を行うように説得したこと自体は、同女の上司である太田所長に認められた業務命令ないしは日常的な指導の範囲内の行為というべきであり、また、田野尻分会員に対して「仕事がいやなら辞めてしまえ。」と怒声を上げた点は、穏当を欠くものの、右は激昂した結果の一時的な行為というべきであって、これが不当労働行為に該当することを肯認することは困難である。そして、本件全証拠を精査してみても、太田所長の田野尻分会員に対する右説得行為が、原告組合の組合活動に対して介入する意図をもってなされたなど、これが、不当労働行為に該当することを肯認するに足りる証拠はない。

2  原告会社による刑事告訴の不当労働行為該当性について

請求原因3の(六)の(2)の事実は、このうち、昭和五二年一一月三〇日に原告組合がストライキを実施した際、黒川取締役が、原告組合が原告会社社屋に貼付したステッカーを剥がしたため、吉田委員長等がこれに抗議したところ、黒川取締役は、居合わせた高井課長に命じて所轄警察署に連絡をさせ、後日、右ストライキの際に、吉田委員長が黒川取締役に傷害を負わせたとして、同委員長を傷害罪で告訴したこと、また、右の所轄警察署への連絡につき、高井課長が謝罪文を作成して原告組合に対して交付したこと、後日、原告会社は、鳥海書記長が高井課長に強要して右謝罪文を作成させたなどとして、鳥海書記長を強要罪で告訴したことは、いずれも、当事者間に争いがない。

そして、前掲乙第五六、第一〇七、第一二四、第一二八号証、その成立に争いのない乙第六四号証によれば、高井課長が黒川取締役の指示を受けて所轄警察署に連絡をするについては、その前に、黒川取締役が原告組合のステッカーを剥がしたことに抗議をした吉田委員長と黒川取締役とがもみ合う事態が発生するという事情があったこと、また、高井課長は、原告組合の組合員らの強い要求により、やむなく謝罪文を作成したもので必ずしも本意ではなかったことが認められ、この認定に反する趣旨に帰着する乙第四六、第五〇号証の記載部分は、前掲各証拠に照らして直ちに措信することができない。

以上の認定事実によれば、原告会社が所轄警察署へ連絡をしたり刑事告訴をするについては、原告組合の側にも穏当を欠く行為のあったことは否定できず、これらの事実に照らしてみると、右所轄警察署への連絡や刑事告訴が、原告組合の弱体化を図る意図の下でされたなど、これが不当労働行為に該当するものと断定することは困難である。以上のほか、本件全証拠を精査してみても、右所轄警察署への連絡や刑事告訴の不当労働行為該当性を肯認するに足りる証拠はない。

3  原告会社による原告組合の組合旗及び立看板の撤去行為の存否(請求原因3の(六)の(3))について

いずれもその成立に争いのない乙第四六、第五〇、第一〇五、第二五六、第二五七号証によれば、昭和五二年一二月六日に原告本社前に立て掛けてあった原告組合の立看板が、翌七日に原告組合の組合旗が、それぞれ撤去されたことは認められるが、本件全証拠を精査してみても、右撤去が、原告会社によって行われたことを肯認するに足りる証拠はない。

八  なお、原告組合がその取消しを求める本件命令主文第一項第四号は、原告会社が分会員に対して昭和五三年度の夏季及び年末一時金の支給をしないことが不当労働行為に該当するとして申し立てた救済申立を棄却する部分を含んでいるが、原告組合は、本訴において右棄却部分の違法性についての具体的主張をしない。

しかも、前掲乙第一三二号証及びその成立に争いのない乙第四〇二号証によれば、同年度の夏季及び年末一時金の支給については、本件命令発令前の昭和五五年一二月一九日に、原告会社と原告組合との間でその仮支給協定が締結され、これに従って、その仮支給がされていることが認められるから、右の点については、救済の必要性が消滅したことが明らかである。したがって、本件命令主文第一項第四号のうち、右の点に係る救済申立てを棄却した部分にも、何ら違法の点はない。

九  以上のとおりであるから、請求原因3の(一)ないし(六)の主張は、いずれも首肯し難く、本件命令の主文第一項第四号(救済申立棄却命令)及び主文第二項のうち原告組合の再審査申立てを棄却した部分には、何ら違法の点はないものというべきである。

〔結論〕

以上認定説示したところによれば、

一  甲事件における原告会社の請求は、本件命令のうち、被告が主文第一項第一号において、原告会社に対して、昭和五二年度及び同五三年度の賃上げの実施につき、原告組合と速やかに誠意をもって団体交渉を行うことを命じた部分の取消しを求める限りにおいて理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却し、

二  乙事件における原告組合の請求は、すべて理由がないから棄却し、

三  訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条ただし書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田豊 綿引万里子 田村眞)

(別紙一)

一 被申立人は、申立人との間で、昭和五二年賃上げ、同年年末一時金、五三年賃上げ、同年夏季一時金及び同年年末一時金問題等、組合が要求した事項に関して、速やかに誠意をもって団体交渉を行わなければならない。

二 被申立人は、前記各賃上げ及び一時金について、申立人と妥結するまでの間、申立人の黒川乳業分会員に対して、総評全国一般大阪地方本部黒川乳業労働組合との妥結額を、賃上げについては同組合員及び非組合員に実施した日に遡って仮に実施し、また、一時金については速やかに仮に支給しなければならない。

ただし、五二年九月一日以降の分については、前記労働組合員と黒川乳業分会員との週所定労働時間数の割合に応じて実施・支給することで足りるものとする。

また、被申立人は、前記措置によって生じた伊沢倉次に対する退職金の精算を仮に行わなければならない。

三 被申立人は、左記記載の黒川乳業分会員に対して、同表記載の各金額及びこれに各年五分を乗じた額を返還しなければならない。

年月日

対象時間

朴時夫

田野尻聖子

廣部文樹

五二・七・一五

二・五

二一一〇円

二二七五円

八・一一

二・〇

一七五六円

九・一

二・〇

一八二〇

九・八

一・五

一三一七

一三六五

九・一六

一・〇

八七八

九一〇

一〇・三

二・五

二一九五

二一一〇

一〇・二八

二・〇

一六八八

一一・一一

二・五

二一九五

二一一〇

一一・二八

二・〇

一六八八

一二・一六

二・五

二一九五

二一一〇

五三・一・一二

二・〇

一七五六

一八二〇

二・三

二・五

二一九五

二一一〇

三・二

二・〇

一七五六

一六八八

四・二七

二・〇

一七五六

一六八八

五・一九

二・五

二一九五

二一一〇

六・一五

三・〇

二六三四

二七三〇

七・一九

三・〇

二六三四

二七三〇

四 被申立人は、申立人に対して、速やかに左記の文書を手交しなければならない。

年  月  日

申立人代表者あて

被申立人代表者名

当社が行った左記の行為は、労働組合法第七条第一号、第二号及び第三号に該当する不当労働行為であることを認め、今後このような行為を繰り返さないことを誓約します。

(1) 貴組合と誠意ある団体交渉を行わず、貴組合の同意なく、昭和五二年五月一一日に、貴組合員の労働条件を一方的に変更する会社再建案を実施したこと。

(2) 昭和五二年賃上げ、同年年末一時金、五三年賃上げ、同年夏季一時金及び同年年末一時金等に関する貴組合の要求に対して誠意ある回答を行わず、団体交渉を拒否したこと。

(3) 大阪府地方労働委員会の審問及び大阪地方裁判所の審尋に出席した貴組合員に対して、貴組合と交渉することなく、従前の取扱いを変更し、賃金カットを行ったこと。

五 申立人のその他の申立ては棄却する。 以上

(別紙二)

一 中労委昭和五三年(不再)第五七号事件初審命令主文並びに中労委昭和五五年(不再)第四号・第五号事件初審命令主文を次のとおり変更する。

(1) 黒川乳業株式会社は、関西単一労働組合との間で、昭和五二年度賃上げ、同年夏季一時金、同年年末一時金、昭和五三年度賃上げ問題等組合が要求した事項に関して、速やかに誠意をもって団体交渉を行わなければならない。

(2) 黒川乳業株式会社は、昭和五二年夏季一時金及び同年年末一時金について、関西単一労働組合と妥結するまでの間、黒川乳業分会員及び川尻良信に対して、昭和五五年一二月一九日に関西単一労働組合と妥結した昭和五三年夏季一時金及び同年年末一時金の仮支給の例に準ずる方法により速やかに仮に支給しなければならない。

(3) 黒川乳業株式会社は、関西単一労働組合に対して、速やかに左記の文書を手交しなければならない。

年  月  日

関西単一労働組合

執行委員長 吉田宗弘殿

黒川乳業株式会社

代表取締役 黒川繁八

当社が行った左記の行為は、労働組合法第七条第一号、第二号及び第三号に該当する不当労働行為であると中央労働委員会によって認定されました。よって、今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

イ 貴組合と誠意ある団体交渉を行わず、昭和五二年五月一一日以降、会社再建案を一方的に実施したこと。

ロ 昭和五二年度賃上げ、同年年末一時金及び昭和五三年度賃上げ等に関する貴組合の要求に対して誠意ある回答を行わず、団体交渉を拒否したこと。

(注・年月日は手交の日付を記入すること。)

(4) その余の救済申立てを棄却する。

二 中労委昭和五五年(不再)第四号・第五号事件に係るその余の再審査申立てを棄却する。

以上

(別紙三) 労働条件対比表

会社再建案

旧労働条件

1

初任給を次のとおりとする。

高卒(一八歳) 八万九〇〇〇円

大卒(二二歳) 一〇万六〇〇〇円

初任給は次のとおりとする。

高卒(一八歳) 一二万〇五〇〇円

大卒(二二歳)一三万〇五〇〇円

2

賃金体系の全面改定

基本給を年齢給、勤続給及び職能給に分け、職能給の昇降級・号は、人事考課に基づいて決定する。

基本給は、年齢別最低保障賃金であり、昇給は、一律の昇給率をもって行い、人事考課は行わない。

3

労働時間の延長

週四二時間・週休一日制とする。

一日七時間労働を基礎とした週三五時間労働・週休二日制とする。

4

夏期休暇を三日間、年末年始休暇を四日間にする。

夏期休暇は五日間、年末年始休暇を六日間とする。

5

慶弔休暇を現行からそれぞれ二日間減日する。

慶弔休暇は次のとおりとする。

本人の結婚の場合 七日間

親族の喪の場合

配偶者、父母、配偶者の父母、子の場合 七日間

祖父母、配偶者の祖父母、兄弟姉妹、孫、子の配偶者の場合 五日間

6

病気欠勤、生理休暇、つわり休暇、産前・産後休暇を無給にする。

病気欠勤、生理休暇、つわり休暇、産前・産後休暇は有給にする。

7

年次有給休暇を、第一年度六日間とし、入社年度は付与しない。

年度末での年次有給休暇の買取は行わない。

年次有給休暇は第一年度一〇日間とし、入社年度においては、入社二か月を経過した者に対して、一か月一日に割合で与える。

年次有給休暇の残日数については年度末に買取りを行う。

8

残業割増率を法定の二五パーセントにする。

残業割増率は、五〇パーセントとする。

9

遅刻、早退の賃金カットを厳密に行う。

三〇分以内の遅刻については、これを容認し、賃金カットを行わない。

10

退職金支給は、自己都合と会社都合に分け、支給率を変える。

退職金支給については、自己都合と会社都合とで支給率に区別はない。

11

社会保険(健康保険、厚生年金)の労使負担割合を折半にする。

社会保険の労使負担割合は、労働者三割、使用者七割とする。

12

従業員の給食負担金を二五〇円とする。

従業員の給食負担金は一〇〇円とする。

13

寮費を三〇〇〇円徴収する。

寮費は無料とする。

14

営業(配達)における外交及び集金は、職務とする。

営業(配達)担当者は、慣行として外交を行うが、集金は、集金人が行う。

15

パートタイマー制度を導入する。

年齢別最低保障賃金により、パートタイマー制度は事実上廃止されている。

16

就業時間中の組合活動の禁止。

組合活動は原則として就業時間外に行うものとするが、組合が必要と認めた場合には、会社は、時間内の組合活動を認める。

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